企業の知財マネジメントにおいて、クリエイティブ・コモンズに関する誤った認識に基づく対応がしばしば見受けられます。また、当事務所へのクリエイティブ・コモンズに関するお問合せも増えています。本記事ではクリエイティブ・コモンズの概要と利用上の注意点を解説します。

クリエイティブ・コモンズとは

クリエイティブ・コモンズ(Creative Commons)とは、2001年に米国のローレンス・レッシグ教授らが設立した非営利団体が提供する、柔軟な著作権ライセンスのシステムを指します。クリエイティブ・コモンズの特徴は、従来の「All Rights Reserved」による厳格な著作権保護から、「Some Rights Reserved(一部の権利を保有)」に発想を転換させた革新的な仕組みにあります。

クリエイティブ・コモンズのライセンスは、インターネット上での創作物の共有と再利用を容易にするために設計されています。クリエーターは自分の作品に対して、どの権利を保持し、どの権利を開放するかを明確かつ簡潔に示すことができます。これにより、利用者はライセンス条件を遵守する限り、個別の許可を得ることなく創作物を利用したり改変することが可能になります。クリエーター(著作権者)と利用者の権利の両立を目指すために登場したのがクリエイティブ・コモンズです。

ライセンスの種類

クリエイティブ・コモンズでは、クリエーター(著作権者)が自分の作品(著作物)の利用条件を明示するために、4つの基本条件を組み合わせた6つの標準ライセンスを提供しています。

4つの基本条件

表示(Attribution - BY):作品を利用する際は、原作者のクレジットを適切に表示する必要があります。すべてのCCライセンスにはこの条件が含まれています。

非営利(NonCommercial - NC):作品を営利目的で利用することができません。非営利目的での利用のみが許可されます。

継承(ShareAlike - SA):元の作品と同じライセンス条件でのみ、二次的著作物を作成・共有することができます。

改変禁止(NoDerivatives - ND):作品をそのままの形でのみ利用することができ、改変は許可されません。

6つの標準ライセンス

各ライセンスはアイコンとともに表示され、視覚的にも理解しやすいものとなっています。

6つの標準ライセンス(出所:creaetivecommons.jp

CC BY(表示):最も自由度の高いライセンスです。原作者のクレジットを表示する限り、商用利用も改変も自由に行うことができます。

CC BY-SA(表示-継承):原作者のクレジットを表示し、改変した作品を同じライセンスで公開する限り、商用利用も改変も自由に行うことができます。Wikipediaが採用しているライセンスとして広く知られています。

CC BY-NC(表示-非営利):原作者のクレジットを表示し、非営利目的に利用する場合に限り、改変も含めて自由に利用できます。

CC BY-ND(表示-改変禁止):原作者のクレジットを表示し、作品を改変せずに使用する限り、営利目的も含めて自由に利用できます。

CC BY-NC-SA(表示-非営利-継承):原作者のクレジットを表示し、非営利目的に限り、かつ改変した作品を同じライセンスで公開する限り、自由に利用できます。

CC BY-NC-ND(表示-非営利-改変禁止):最も制限の厳しいライセンスです。原作者のクレジットを表示し、非営利目的で、かつ改変せずに使用する限り、共有することができます。

これらのライセンスに加えて、「CC0(ゼロ)」というライセンスも存在します。これは著作権を放棄し、パブリックドメインに近い状態で作品を公開するものです。

リーガル・コード

各ライセンスの法的な内容についてはリーガル・コードとして公開されています。

活用方法

クリエーターがライセンスを適用する場合

クリエーターがクリエイティブ・コモンズのライセンスを自分の作品に適用したい場合、クリエイティブ・コモンズの公式サイトにある「ライセンス選択ツール」を利用するのが簡単です。ライセンスを選択すると、HTMLコードやアイコン画像が提供されるため、これをウェブサイトやブログに埋め込むだけでライセンスが適用されます。

ライセンス表示の際には、以下の情報を含めることが推奨されています。

  • 作品のタイトルと作者名
  • 適用されているライセンスの種類とバージョン
  • ライセンス情報へのリンク

例えば、ブログの記事にCC BY-SAライセンスを適用する場合、記事の末尾に「この記事は、クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 4.0 国際ライセンスの下に提供されています」といった文言と、ライセンスへのリンクを記載します。

利用者がライセンスを付与された作品を利用する場合

クリエイティブ・コモンズのライセンスが付与された作品を利用する際には、そのライセンス条件を理解し遵守することが重要です。特に商用利用不可(NC)ではないか、改変不可(ND)ではないかについては、注意深く確認する必要があります。

利用上の注意点

クリエイティブ・コモンズは著作物の共有と再利用を促進する便利な仕組みですが、利用する際にはいくつかの重要な注意点があります。

著作権侵害のリスクをゼロにするものではない

クリエイティブ・コモンズのライセンスで公開されている作品を利用したとしても、著作権侵害のリスクが完全にゼロになるわけではありません。以下のような可能性があります。

ライセンス付与者に権限がない場合:クリエイティブ・コモンズのライセンスを付与した人物が、そもそもその作品の著作権者でなかった、あるいは適切な権限を持っていなかった場合、そのライセンスは無効となります。ライセンスを付与する者が適法な権限を有していることを確認する責任は利用者側にあるため、ライセンスを盲信するのは危険です。

第三者の権利が含まれている場合:例えば、写真に映っている人物の肖像権やプライバシー権、商標やロゴなどの知的財産権は、クリエイティブ・コモンズのライセンスでは処理されません。これらの権利に関しては別途許諾を得る必要があります。

不適切な利用方法:クリエイティブ・コモンズのライセンスの条件に違反した利用(例:非営利条件のものを商用利用する、クレジット表示を怠るなど)は、著作権の侵害行為となります。令和3年10月12日の東京地裁判決では、BY-SAライセンスを適用した著作物につきライセンス条件を遵守しない利用が著作権侵害を構成するとして、著作権者から利用者に対する損害賠償請求を認めました。

「非営利(NC)」の解釈

「非営利(NC)」条件の解釈には曖昧さが存在します。リーガル・コードでは、営利利用とは「商業上の利得や金銭的報酬を主な目的とした利用」を意味するとされていますが、具体的な判断基準は各国の法制度や判例によって異なる可能性があります。疑問がある場合は、著作権者に直接確認するのが安全といえます。

国による法律の違い

クリエイティブ・コモンズライセンスは各国の法制度に合わせてローカライズされていますが、著作権法の国際的な違いによって、ある国では問題ない利用が別の国では問題になる可能性があります。特に、著作権の保護期間や著作者人格権の扱いには国ごとに大きな違いがあります。

日本において発生する論点の典型例が、著作者人格権の影響です。日本の著作権法においては著作者人格権、特に同一性保持権(著作権法第20条第1項)を事前に放棄することができないため、改変可能なクリエイティブ・コモンズのライセンスが適用されている著作物であっても、実際には改変行為が著作者人格権の侵害に該当する可能性があります。

(同一性保持権)
第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

著作権法

実務上の対応策

これらのリスクを最小限に抑えるための実務上の対応策として、以下の点に注意することが重要です。

  1. 信頼できるソースからCCライセンス作品を入手する
  2. 改変可能性や商用利用の範囲について、著作権者に直接確認を取る
  3. 第三者の権利(肖像権、商標など)が含まれていないかを個別具体的に確認する

特に企業や組織でCCライセンス作品を利用する場合は、法務部門や専門家に相談することが推奨されます。

まとめ

クリエイティブ・コモンズは、デジタル時代における著作権のあり方を根本から見直し、創作と共有のバランスを取る新たな枠組みを提供しています。「すべての権利を保有する」伝統的な著作権制度と「著作権フリー」の両極端ではなく、その中間にある柔軟な選択肢を提供することで、創作者の権利保護と作品の広範な利用・流通の両立を目指しています。

ただし、クリエイティブ・コモンズは著作権から利用者を開放する万能ツールではなく、実際の利用上には種々の問題が生じ得ます。ライセンスのみに依拠するのではなく、コンテンツの内容や配布元の信頼性など、多角的にコンテンツの利用可否や改変可否を検討することが重要です。

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