事業会社が新規事業を開始する目的で子会社を設立する場合、広範な領域で対応すべき課題や検討すべき論点が発生します。

本記事では、子会社設立の際の論点や留意点を概説します。

子会社設立のメリット

新規事業を親会社内ではなく新規に設立する子会社で行うことで、多岐にわたるメリットを享受することができます。一般的には以下のような点が挙げられます。

事業毎の意思決定のスピード向上

事業別に会社を分けることで、大企業特有の組織の肥大化や機能の二重化を防ぎ、意思決定の迅速化を図ることができます。これにより市場や環境の変化に素早く対応し、収益機会を逃さずに済むという利点があります。

権限委譲によるインセンティブ向上

子会社の役員に広範な権限を与えることで、役員の事業成功に対するモチベーションやインセンティブが高まり、積極的な事業展開につながります。

業績評価の適正化

子会社別に独立した決算を行うことで、各事業の収益性や財務健全性を把握することが容易になります。これにより、経営資源の最適な配分や管理が可能となります。

柔軟な人事制度の設定

親会社とは異なる労働条件や報酬体系を採用できるため、子会社の事業の性質や収益性に応じた柔軟な人事政策を策定することが可能となります。特に新規性の高い事業領域の場合、伝統的な大企業とは異なる(よりアップサイドの強い)報酬体系を設定しなければ、事業推進に適した人材を確保できなくなるリスクが生じます。

ブランディング

特定の事業に特化したブランド戦略を展開することで、信頼性や専門性をアピールすることができ、市場での認知度と競争力の強化につながります。また、不祥事等によるブランド価値の毀損が発生した場合にも、グループ全体への影響を最小限に留めることができます。

税制メリット

法人税法や租税特別措置法は、中小企業に対する優遇措置を多数定めています。一例として、資本金1億円以下の中小企業は年間800万円までの利益に対して軽減税率(15%)が適用されます(租税特別措置法42条の3の2)。
ただし、グループ法人税制が適用される場合には優遇措置の多くが適用外となるなど、実際の課税関係については税理士等の専門家を交えた慎重な検討が必要となります。

子会社設立のスキーム

発起設立

会社が発起人となって、子会社を新規に設立する手法(会社法25条1項1号)です。新規事業を行う目的で子会社を設立する場合におけるオーソドックスな手法です。

短期間(小規模な会社であれば最短2週間程度)かつ簡易な手続で子会社を設立することができますが、設立した子会社は中身の無いハコでしかありません。設立後に、事業を遂行する人材の確保や設備の取得等を進める必要があります。

会社分割(新設分割)

親会社の一部の事業を分割して、新会社に承継させる手法(会社法762条1項)です。親会社が複数の事業を行っており、その一部を新会社に承継させるようなケースで活用されることがあります。

新設分割には原則として株主総会特別決議が必要となり(会社法804条、309条2項)、親会社の株主の3分の2以上の承認が必要となります(簡易分割等の例外あり)。債権者保護手続(会社法810条)や労働者との協議商法等改正法附則5条)が必要となるケースもある等、手続上の負担が大きいです。また税務上も、「適格分割」(法人税法2条12の11)となる要件を満たせず非適格分割となった場合、多額の課税を受けるリスクがあります。以上より、新設分割による会社設立を検討する際は弁護士、税理士等の専門家に相談することが強く推奨されます。

(新設分割の手続の詳細については別記事で紹介します。)

子会社設立に向けた検討事項と留意点

会社設立

以下では発起設立を前提に、子会社設立に向けて検討すべき事項と留意点を概説します。

事業目的

子会社の事業目的を明確に定義します。企業の長期的なビジョンや既存事業との関係等を考慮し、新規事業において達成したい目的を可能な限り言語化します。

それに応じて、子会社の事業範囲についても定義します。事業範囲が曖昧だと親会社との競合(カニバリゼーション)につながる虞があるため、線引を明確にしておくことが推奨されます。

加えて、子会社に期待する業績指標(KGI, Key Goal Indicator)を定義します。財務指標(利益やキャッシュフロー)を定めることが一般的ですが、非財務指標(CO2排出量や人員数)を定めるケースもあります。

会社の基本的事項

子会社の商号(名称)を定めます。商号に基づいてマーケティング戦略、ロゴや公式ウェブサイトのデザイン、独自ドメイン等の決定につながるため、先送りにせず適切なタイミングで決定することが重要です。

また、役員の人数、構成(親会社出向か外部人材か)、役割分担、機関設計(取締役会の有無、監査役の有無等)を決定します。取締役の人数は法的には(取締役会非設置会社の場合)1名で十分ですが、不慮の事故があった場合の事業継続可能性を考慮すれば、最低でも2名以上の選任が望ましいでしょう。

ビジネス計画

ビジネス計画にあたっては外部環境調査からスタートすることが一般的です。新規事業の市場規模、顧客層、競合他社の状況等に関する情報を収集・整理し、事業のフィージビリティを検証します。

事業化の目処が立った場合、必要な商流(仕入先・販売先)、設備、人材等の整理を行い、具体的な商品・サービスのラインナップと価格設定につなげます。売上額や仕入額の見込を立て、収支計画の策定につなげます。

財務

設立後数年間の収支計画(収入・支出)を策定し、それに基づいて設立時に必要となる親会社からの出資額を決定します。この作業は他の領域(ビジネス計画、人事労務、オフィス等)の検討結果の影響を受けるため、いきなり完璧な収支計画を作成することはできず、他領域の進捗に合わせて収支計画を繰り返し更新し、徐々に実現性を高めていく必要があります。

親会社出資以外の資金調達(銀行借入、他社との資本提携、ファンド出資、ジョイントベンチャー等)の選択肢についても検討する場合があります。ただしステークホルダーの数が増えて利害調整の難易度が大幅に上がるため、必要性については慎重に精査するべきでしょう。

人事労務

実際に事業遂行を担う役員及び従業員をどの様に確保するかを検討します。

親会社からの出向者を中心とする場合、出向期間や親会社人事上の取扱い、給与水準等について検討します。親会社の就業規則等において出向命令に関する規定が定められていない場合や、出向命令が権利の濫用に当たる場合、出向命令が無効となったり拒否されるおそれもあるため、親会社側の整理が重要となります。

一方、子会社において独自採用を実施する場合、採用チャネル(人材紹介業者等)を選定し、採用計画を策定します。人材紹介会社への手数料がワンショットで多額に発生することになるため、忘れずに収支計画に反映する必要があります。

会計・経理

子会社単体の会計・経理態勢の整備(担当者の配置、会計システム導入、経理規程の整備)に加え、親会社の連結会計のためのレポーティングについても、報告テンプレートや業務プロセスを整備する必要があります。

知財

新規事業の遂行にあたり、他社の知的財産権(特許権等)との抵触がないかを調査します。抵触またはその虞がある場合、特許権の取得や権利者とのライセンス契約締結等の必要が生じる可能性があるため、早期の検討開始が不可欠です。

また、商号や商品名の決定に先立って、類似の商標登録の調査が必須です。子会社の社名や商品名が他社の商標権を侵害しないか、細心の注意を払う必要があります。子会社設立に先んじて親会社が必要な商標登録を済ませてしまうケースもあります。

マーケティング・PR

商号の決定後、ロゴデザインや公式ウェブサイトの制作に着手します。制作会社への外注の場合、ロゴデザインで1ヶ月程度、公式ウェブサイトはボリュームによりますが3ヶ月程度の納期が一般的であるため、早めに動く必要があります。

ロゴや公式ウェブサイトの著作権の取り扱いは極めて重要です。制作会社との契約内容を精査し、自社が著作権を取得できるか制作会社に著作権が帰属するかを確認します。

オフィス

子会社のオフィスを決定します。親会社のオフィスを間借りすることも多いですが、親会社から子会社に対する転貸(民法612条1項)とみなされる可能性があるため、ビルオーナーとの事前調整は必須です。また、子会社宛の郵便物を適切に受領できるか、子会社専用のポストが使えるか等も確認が必要です。

子会社が新規にオフィスを賃借する場合、多額の初期費用(保証金及び内装費)が発生するため、親会社からの出資等による手当を漏らさずに行う必要があります。

設立手続

まずは原始定款(会社法26条1項)を作成します。定款については日本公証人連合会が記載例を豊富に提供しており参考になります。この時点で会社の商号、機関、役員の構成、親会社の出資額等が確定している必要があります。

原始定款を作成したら、公証人の認証(会社法30条1項)を受けます。認証手数料(3~5万円)に加え、印紙代(4万円)が発生しますが、電子定款を採用すれば印紙代は不要となります。

その後、発起人(親会社)が出資額の払込(会社法34条1項)を行います。子会社はまだ設立されていないため、親会社名義の銀行口座に対して払込を行います。

払込が完了し、必要書類が揃い次第、法務局に会社設立登記を申請します。登記の完了の日をもって会社成立となります(会社法49条)。株式会社の場合は最低15万円の登録免許税が必要となりますが、自治体によっては産業競争力強化法等による軽減措置を受けられるケースがあります。

(会社設立手続については別記事で詳述します)

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上記のとおり、子会社設立には様々な領域での検討や対応が必要です。スケジュールやタスクの前後関係の制約が厳しいものも多く、また繰り返し発生するタスクではないため、着実な遂行のために外部プロフェッショナルを活用することが強く推奨されます。

当事務所は弁護士・公認会計士・税理士・司法書士資格を有する企業法務のプロフェッショナルが在籍しており、法務、会計、税務、登記に至るまで、子会社設立におけるバックオフィスの諸課題にワンストップで対応するサービスを提供しています。これにより、クライアントは外部委託のコストや煩雑なコミュニケーションの経路を削減し、新規事業の推進そのものに注力することができます。

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