ロジットパートナーズ法律会計事務所

2024年6月11日

産業競争力強化法による規制の事前確認と特例

目次

新しいサービスを始めようとするとき、それが既存の規制に当たるかどうかがはっきりしないことがあります。産業競争力強化法には、事業者が国に対して規制の適用関係を確認し、あるいは特例を求めることができる3つの制度が置かれています。いずれも、個別の事業者の具体的な提案や計画に基づく仕組みで、事業を始める前に不確実性を減らすことを目的としています。

当事務所にも、新規事業の立ち上げに際して、想定しているサービスが規制に当たるかどうかという相談が寄せられます。制度の利用に至るかどうかは事案によりますが、検討の入口としては押さえておく必要があります。

3つの制度の使い分け

3つの制度は、事業者が求める内容に応じて使い分けられます。

制度求めること条文
グレーゾーン解消制度解釈と適用の有無の確認7条
新事業特例制度規制の特例措置の適用6条・9条
サンドボックス制度限定した条件での実証8条の2
表1:産業競争力強化法に基づく3つの制度(経済産業省「産業競争力強化法に基づく企業単位の規制改革制度について」をもとに当事務所作成)

規制の解釈や適用関係を確認したい場合にはグレーゾーン解消制度、規制が事業の支障となることが明らかで事業者単位の特例を求める場合には新事業特例制度、実際の環境で得られるデータがなければ規制の在り方を判断しにくい場合にはサンドボックス制度が、それぞれ検討の対象になります。もっとも、必ずこの順に利用するものではなく、事業化の段階と必要な検証の内容に応じて選択されます。

グレーゾーン解消制度

新たな事業活動を行おうとする事業者が、現行の規制の適用範囲が不明確な分野でも安心して事業を行えるよう、具体的な事業計画に即して、あらかじめ規制の適用の有無を確認できる制度です。

事業者が事業所管大臣に確認を求め、事業所管大臣が規制所管大臣に照会したうえで、両大臣の連名で回答が行われます。法律上、主務大臣は遅滞なく回答するものとされており(7条2項)、実際の運用では、原則として1か月以内に回答し、それができない場合には1か月ごとにその理由を通知することとされています。確認の過程では、事業者からの相談に応じて必要な情報の提供や助言が行われます。

経済産業省はグレーゾーン解消制度の活用事例を公表しており、自社の照会内容に近い事例があるかは、申請前に確認しておく価値があります。

このうち、経済産業省が制度の紹介資料で取り上げている利用例に、睡眠環境の総合コンサルティングサービスがあります。利用者へのヒアリングや簡易測定を通じて睡眠環境を分析し、改善のアドバイスや商品提案を行うサービスについて、医師法17条により医師のみに認められている「医業」に当たるかどうかを照会したものです。医業に当たらないとの回答を得て、専用コーナーを設けた店舗展開につながっています。

主務大臣は、理由を付して回答するとともに、その回答の内容を公表します(7条2項)。照会書そのものの公表は照会者の同意を前提としていますが、回答の内容は公表されるため、事業内容がどこまで外部に明らかになるかは、申請前に検討しておく必要があります。

新事業特例制度

規制に当たることがはっきりしている場合に、その規制の特例措置を提案し、安全性等の確保を条件として、企業単位で特例措置の適用を認める制度です。手続は2段階に分かれ、まず規制の特例措置の整備を求め(6条)、次に事業者の新事業活動計画の認定を受けます(9条)。特例措置の創設と計画の認定にあたっては、必要に応じて新技術等効果評価委員会の意見が聴かれます。

同じ紹介資料が取り上げている例は、リヤカー付三輪電動アシスト自転車の公道走行です。当時の道路交通法施行規則ではアシスト力の上限が踏力の2倍に限定されていたところ、3倍とする特例の適用を受け、運転者への交通安全教育や体制整備を代替措置として実証が行われました。安全性について十分な結果が得られたことから施行規則が改正され、特例が一般化しています。ほかの事例は新事業特例制度の活用事例で確認できます。

サンドボックス制度

期間や参加者を限定した実証について計画の認定を受け、実際の環境で得られた情報やデータを用いて規制の見直しにつなげる制度です(8条の2)。AI、IoT、ブロックチェーンなどの新しい技術やビジネスモデルを念頭に置いた仕組みです。

計画の認定を受けても、関係する規制が当然に適用されなくなるわけではありません。認定の要件としては、計画の内容が関係法令に違反しないことが求められています(8条の2第4項)。実証が現行の規制に抵触する場合には、別途、規制の特例措置の整備を求め(6条)、その適用を受ける必要があります。

規制の適用関係が明確でないまま事業化を進めるのではなく、まず限定された条件下でデータを集め、その結果をもって規制の見直しを求めるという道筋になります。認定された案件は規制のサンドボックス制度の活用事例で公表されています。

実務上の留意点

いずれの制度も、抽象的な照会には向きません。グレーゾーン解消制度は「具体的な事業計画に即して」判断される仕組みであり、事業スキーム、契約関係、金銭やデータの流れ、利用者との関係が固まっていなければ、確認を求めること自体ができません。制度を使うかどうかにかかわらず、事業計画を法的な観点から詰める作業が先に立ちます。

そのうえで、確認を求める法令と条項、それに対する自社の見解を特定する必要があります。業法だけでなく、個人情報保護法や景品表示法といった横断的な規制も含めて当たりをつけることになり、一つの事業に複数の法令が関係する場合には、複数の規制所管省庁との調整が必要になることもあります。また、回答は特定された法令・条項と、示された事実関係を前提とするものであり、事業全体の適法性が保証されるわけではありません。

なお、これらの制度は、事業を始める前に不確実性を減らすためのものであり、回答を得るまでに一定の期間がかかります。事業の立ち上げスケジュールを組む段階から、確認に要する期間を織り込んでおくことになります。

その他の事前確認手続

規制の解釈を確認する手続としては、産業競争力強化法によるもののほか、各府省が定める法令適用事前確認手続(日本版ノーアクションレター制度)もあります。こちらは規制を所管する各府省に直接照会する仕組みで、対象となる法令や条項は各府省の定めによります。どの手続によるかは、確認したい内容と所管する省庁によって変わります。

新しい取引の仕組みでは、税務上の取扱いがはっきりしないことも起こります。この点については、国税庁の事前照会に対する文書回答手続があり、一定の要件を満たす場合に、個別の取引等に係る税務上の取扱いについて文書による回答を受けることができます。照会の内容と回答の内容がいずれも公表され、同様の取引を行う他の納税者の予測可能性にもつながる点は、グレーゾーン解消制度と共通しています。

ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス

当事務所では、新規事業推進において、新しいサービスに適用される規制の洗い出しと、事業スキームの設計に対応しています。グレーゾーン解消制度などの照会を行う場合の事業計画の整理や照会書の作成、規制の適用関係についての書面での見解も、あわせて扱います(法務コンサルティング法律意見書)。

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