ロジットパートナーズ法律会計事務所

2024年9月24日

中小M&Aガイドライン(第3版)の公表

目次

中小企業庁は2024年8月30日、「中小M&Aガイドライン」を改訂し、第3版を公表しました。不適切な譲り受け側の存在や経営者保証に関するトラブル、M&A専門業者による過剰な営業・広告といった課題に対応するもので、仲介者・FA(フィナンシャル・アドバイザー)に対する規律の拡充が改訂の中心です。

規律の名宛人は主に支援機関ですが、後継者不在の中小企業にとっても、支援機関を選び、仲介契約や最終契約の条件を確認する際の物差しとなる内容です。本記事では、ガイドラインの位置づけと第3版の主な改訂内容、M&A支援機関登録制度における適用スケジュールを整理します。

ガイドラインの位置づけと沿革

中小M&Aガイドラインは、後継者不在の中小企業が第三者に事業を引き継ぐM&Aについて、当事者となる中小企業向けの手引きと、支援機関向けの基本事項を示す文書です。2015年3月策定の「事業引継ぎガイドライン」を全面改訂する形で2020年3月に初版が策定され、2023年9月の第2版では、仲介契約・FA契約の締結前の書面による重要事項説明や、手数料に関する留意点が拡充されました。

ガイドライン自体に法的拘束力はありません。もっとも、中小企業庁が2021年8月に創設したM&A支援機関登録制度は、ガイドラインの遵守宣言を登録の要件としており、事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)で仲介・FAの手数料が補助対象となるのは、登録支援機関による支援に限られます。登録支援機関にとっては、実質的に業務運営の基準として機能しています。

改訂の背景

今回の改訂は、中小M&A市場の拡大とM&A専門業者の増加に伴って顕在化したトラブルへの対応が出発点です。経済産業省のニュースリリースは、改訂の趣旨を次のように述べています。

不適切な譲り受け側の存在や経営者保証に関するトラブル、M&A専門業者が実施する過剰な営業・広告等の課題に対応し、中小M&A市場における健全な環境整備と支援機関における支援の質の向上を図る観点から、中小M&Aガイドライン(第3版)において、中小企業向けのガイダンス及び仲介者・FA向けの留意事項等を拡充しました。

出典: 経済産業省「「中小M&Aガイドライン」を改訂しました」(2024年8月30日)

概要資料では、不適切な譲り受け側の具体例として、M&Aの成立後に譲り渡し側の資金を個人口座に送金するなど違法と疑われる行為や、譲り渡し側の経営者保証を譲り受け側に移行させる想定であったにもかかわらず移行しない、といった行為が挙げられています。こうした事業者を市場から排除するための仕組みづくりが、第3版の柱の一つになっています。

改訂の主なポイント

第3版の改訂項目は、次の7点に整理されています。

改訂項目主な名宛人
手数料・業務の説明仲介者・FA
広告・営業の規律仲介者・FA
利益相反の禁止仲介者
テール条項等仲介者・FA
最終契約後のリスク中小企業、仲介者・FA
経営者保証の扱い中小企業、仲介者・FA、金融機関
不適切な事業者の排除仲介者・FA、プラットフォーマー
表1:中小M&Aガイドライン(第3版)の主な改訂項目(経済産業省ニュースリリースをもとに当事務所作成)

契約締結前の説明事項の拡充

仲介契約・FA契約の締結前に書面を交付して説明すべき重要事項に、担当者の保有資格・経験年数・成約実績、プロセスごとに提供する業務の範囲・内容、(仲介者の場合)相手方の手数料に関する事項などが追加されました。手数料については、報酬率、報酬基準額(譲渡額・純資産・移動総資産等のいずれを基準とするか)、最低手数料の額、報酬の発生タイミング(着手金・月額報酬・中間金・成功報酬)といった算定基準の説明が求められます。

説明を受けた依頼者が納得できず、手数料や業務内容について交渉を申し入れた場合には、仲介者・FAに誠実な対応の検討が求められる旨も明記されました。説明は契約締結権限を有する者に対して行い、説明後には契約締結を判断するための十分な検討時間を与えることとされています。

広告・営業の規律

広告・営業先が、M&Aの実施意向がない旨、契約を締結しない旨、または引き続き広告・営業を受けることを希望しない旨の意思(停止意思)を表示した場合、仲介者・FAはこれを拒まず、ただちに広告・営業を停止しなければなりません。停止意思の表示は組織的に記録・共有し、広告・営業を再開する場合には、事後に検証可能な組織的判断によることが求められます。

あわせて、事業者名や勧誘目的を告げずに行う広告・営業、意思決定に必要な時間を与えず即時の判断を迫る広告・営業、譲渡額について過大なバリュエーションを提示するなど誤認を招く広告・営業が、禁止事項として明記されました。過去の対応状況や頻度等に照らして過剰な広告・営業は、民法上の不法行為責任を負う可能性があることにも言及されています。

利益相反に係る禁止事項の具体化

仲介者は譲り渡し側・譲り受け側の双方から依頼を受けるため、両当事者に対して中立・公平であることが求められます。第3版では、禁止される利益相反行為として、追加で手数料を支払う譲り受け側やリピーターとなる依頼者への便宜(当事者のニーズに反したマッチングの優先実施や譲渡額の誘導等)、希望譲渡額と成立した譲渡額の差分の一定割合を正規の手数料とは別に要求する行為、一方当事者から伝達を求められた事項を他方に伝えない・偽って伝える行為、一方当事者にとってのみ有利または不利な情報の秘匿が具体的に列挙されました。

これらの行為を行わない旨を、仲介契約書に仲介者の義務として定めることまで求めた点が、第3版の特徴です。

ネームクリア・テール条項に関する規律

ネームクリア(譲り渡し側の名称を含む企業概要書等の詳細資料を候補先に開示すること)については、原則として、開示先となる候補先ごとに譲り渡し側から個別に同意を取得することが求められます。譲り渡し側が早期のマッチングを希望する場合等には、一定の基準の下で仲介者・FAが開示先を選定する方法も認められています。ただしその場合でも、個別同意によらないことのリスクを譲り渡し側に明示的に説明した上で、希望する業種・所在地や排除する個社(取引先・同業他社等)など可能な限り具体的な基準を設定し、譲り渡し側からの指示があれば速やかにネームクリアを中止することを確約する必要があり、候補先との秘密保持契約の締結は必須とされています。

テール条項(仲介契約・FA契約の終了後一定期間内に成立したM&Aについて、契約終了後であってもM&A専門業者が手数料を取得する条項)については、対象をネームクリアが行われ譲り渡し側に紹介された譲り受け側に限定すべきこと、ロングリストやノンネーム・シートの提示にとどまる候補先は対象とすべきでないことが具体化されました。また、専任条項がない契約で依頼者が複数のM&A専門業者から同一の候補先の紹介を受けた場合、成約に向けた支援者として選択されなかった業者はテール条項を根拠に手数料を請求すべきでない、という規律が新設されています。テール期間を最長でも2〜3年以内とする目安は従前どおりです。

最終契約後のリスク事項と経営者保証

中小企業向けの新しい内容として、最終契約・クロージング後に当事者間のトラブルに発展しうるリスク事項の解説が追加されました。譲り渡し側の経営者保証の扱い、デュー・ディリジェンス(DD)の非実施、表明保証の内容、クロージング後の支払・手続、最終契約後の支払の調整・修正、譲り渡し側の資産・貸付金の整理、最終契約からクロージングまでの期間の7項目です。表明保証については、DDの結果を踏まえて内容を検討すべきであり、期間や責任上限が設定されていない場合には譲り渡し側が過大な表明保証責任を負うリスクがあることを、仲介者・FAが依頼者に説明すべきとされています。

経営者保証については、解除または譲り受け側への移行を確実に実施するための対応が具体化されました。士業等専門家(特に弁護士)や事業承継・引継ぎ支援センター、保証の提供先である金融機関等へのM&A成立前の相談が選択肢となることを、仲介者・FAが譲り渡し側に説明すべきとされています。譲り渡し側が相談を希望する場合、仲介者・FAはその実施を拒まず、仲介契約・FA契約等の秘密保持条項の対象から相談先を除外することとされ、譲り受け側との契約にも秘密保持条項がある場合には、相談先を対象から除外するよう譲り受け側に働きかけることが求められます。

最終契約では、保証の解除・移行を譲り受け側の義務として位置づけた上で、クロージング条件として設定することや、解除・移行が実現しなかった場合を想定した契約解除条項・補償条項を盛り込むことを検討すべきとされました。もっとも、当事者間の契約に定めるだけで保証が当然に解除・移行されるわけではなく、保証先である金融機関等の承諾と所定の手続が別途必要です。

不適切な譲り受け側の排除

仲介者・FAおよびM&Aプラットフォーマーに対して、譲り受け側が最終契約を履行し対象事業を引き継ぐ意思・能力を有しているかを確認するための調査が求められることになりました。調査の観点として、財務状況(想定される譲渡対価を調達可能か、M&A実施後に事業を継続運営できるか)、コンプライアンス(代表者・役員・株主等を含めた反社会的勢力への該当性や過去のM&Aトラブルの有無)、事業実態、最終契約の実行可能性が挙げられています。調査の概要は、仲介契約・FA契約の締結前に譲り渡し側へ説明しなければなりません。また、遅くとも最終契約の締結前までに調査を実施し、リスク事項を検出した場合には、開示可能な範囲で調査の結果を譲り渡し側に報告し、取引実行の可否や最終契約に規定すべき条項の内容を協議することとされています。

また、最終契約の不履行等の情報を取得した場合には組織的に共有し、当該譲り受け側への支援を慎重に検討する体制の構築が求められます。業界内で不適切な譲り受け側の情報を共有する仕組みの構築が期待される旨も明記され、その仕組みへの参加有無を依頼者に説明することとされました。

登録支援機関への適用スケジュール

中小M&Aガイドライン(第3版)に関するQ&Aによれば、M&A支援機関登録制度における第3版の適用スケジュールは次のとおりです。2024年8月時点で登録済みの支援機関と、2024年9月から12月までに新規登録された支援機関は、2024年12月31日までに第3版遵守のための対応を完了した上で、遵守宣言を行う必要があります。遵守宣言をしない場合でも2025年1月からは第3版が適用され、対応がなされていない場合には登録取消事由に該当しうるとされています。2025年1月以降に新規で登録申請する事業者には、申請時点から第3版が適用されます。

第3版の遵守宣言をした登録支援機関は、登録支援機関データベース上に「第3版対応」のマークが表示されます。

中小企業側の確認ポイント

ガイドラインは支援機関の行為規範であると同時に、中小企業が支援機関と契約条件を確認するための基準としても使えます。譲り渡し側の立場では、次のような点の確認が考えられます。

  • 仲介契約・FA契約の締結前に、重要事項(手数料の算定基準・最低手数料、プロセスごとの業務内容、担当者の資格・実績、専任条項・テール条項・直接交渉の制限の内容等)について書面による説明を受ける
  • 手数料や業務内容に納得できない場合は、交渉や他の支援機関への相談を検討する。専任条項がある場合でも、合理的な理由がなければ他の支援機関へのセカンド・オピニオンは許容されるべきとされている
  • 経営者保証の解除・移行を望む場合、士業等専門家や保証の提供先の金融機関等へのM&A成立前の相談が選択肢となる
  • 最終契約の内容は、仲介者・FAの説明に加えて自らも十分に確認し、必要に応じて士業等専門家の意見を求める

ガイドラインは、仲介者が確定的なバリュエーションを実施したり、自らDDを実施してその報告内容に係る結論を決定したりすべきではなく、必要に応じて士業等専門家の意見を求めるよう依頼者に伝えるべきとしています。また、クロージング後に経営者保証が円滑に移行しない等の当事者間のトラブルが発生した場合には、早急に弁護士へ相談することが望ましいとしています。クロージング後の紛争解決への関与・支援(一方当事者との交渉を含みます)は非弁行為(弁護士法第72条)に該当する可能性があり、仲介者・FAによる支援には限界があるためです。

ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス

当事務所では、M&A支援において、スキームの検討から法務デューデリジェンス、株式譲渡契約等の最終契約の作成・レビュー、クロージングまでのM&A関連業務を数多く扱っています。仲介契約・FA契約の内容確認や、最終契約に盛り込まれた表明保証・経営者保証の扱いについてのセカンド・オピニオンにも対応しています(スポット相談)。

また、当事務所はM&A支援機関登録制度の登録支援機関であり、中小M&Aガイドライン(第3版)の遵守を宣言しています

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