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借地権が土地の賃借権である場合、借地上の建物を譲渡すると敷地の賃借権の譲渡も伴うため、地主の承諾が必要になります。地主が承諾しないときは、借地借家法により、裁判所が地主の承諾に代わる許可を与える手続が用意されています。
この記事では、この手続の要件と、あわせて問題になる承諾の対価や地主の介入権について整理します。
参考記事: 地代増額請求について(2024年1月23日)
譲渡に地主の承諾が必要な理由
借地権とは、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権をいいます(借地借家法2条1号)。このうち土地の賃借権については、賃借人が賃借権を譲り渡し、または賃借物を転貸するには賃貸人の承諾を得なければならず、承諾を得ずに第三者に使用収益させたときは、賃貸人は契約を解除することができます(民法612条)。もっとも、判例上、無断の譲渡や転貸であっても、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、解除は認められないとされています。
借地上の建物が売買された場合、特別の事情がない限り、建物の所有権とともに敷地の賃借権も譲渡されたものと解されます。買主は、建物を存置するために敷地の利用権を必要とするためです。したがって、借地権付き建物の売買では、地主の承諾を得られるかどうかが取引の成否を左右します。
なお、借地権が地上権である場合は物権であり、譲渡に地主の承諾は要しません。以下で扱う手続も、賃借権を対象とするものです。
承諾に代わる許可
地主が承諾しない場合、借地権者は、裁判所に対して承諾に代わる許可を求めることができます。
第十九条 借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。
出典: 借地借家法
条文が「譲渡しようとする場合」としているとおり、この申立ては、建物を譲渡する前に行うことが前提です。許可の要件は、譲渡を受ける第三者が賃借権を取得しても地主に不利となるおそれがないことです。裁判所は、この判断にあたって、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならないとされています(19条2項)。地代の支払状況や、譲受人の資力・用途が問題になります。
条文の後段にあるとおり、裁判所は、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、許可を財産上の給付に係らしめることができます。実務でいう承諾料は、この財産上の給付にあたります。裁判所が定める給付の額は、借地権の価格や残存期間などを踏まえた個別の判断となり、裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければなりません(19条6項)。鑑定委員会は、弁護士・不動産鑑定士・有識者から裁判所が事件ごとに指定する3人以上の委員で組織され、鑑定委員に要する費用は国が負担します(東京地方裁判所「借地非訟事件手続の流れ」)。なお、これは裁判所が許可に付す給付の話であり、地主との交渉で合意する承諾料の額は、当事者の合意によって決まります。
地主の介入権
この手続には、地主の側から対抗する仕組みがあります。裁判所が定める期間内に、地主が自ら建物の譲渡と賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、承諾に代わる許可ではなく、相当の対価を定めて建物と賃借権を地主に譲渡することを命じることができます(19条3項)。この裁判では、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命じることもできます。
介入権の申立てが認められ、その裁判が確定すると、借地権者は、予定していた買主ではなく地主に建物と賃借権を譲渡することになります。買主を決めて申立てに及んでも、地主が対価を支払って取得する道が残されているということです。
また、承諾に代わる許可の裁判は、その効力が生じた後6か月以内に借地権者が建物を譲渡しないときは、その効力を失います。ただし、裁判所は、許可の裁判においてこの期間を伸長し、または短縮することができます。
もっとも、介入権の申立ては、借地権者が当初の申立てを取り下げたり、それが不適法として却下されたりしたときは効力を失います(19条4項)。他方、介入権を認める裁判があった後は、借地権者による許可の申立てと地主による介入の申立てのいずれも、当事者の合意がなければ取り下げることができません(19条5項)。
競売・公売で建物を取得した場合
借地上の建物が競売や公売にかけられ、第三者が買い受けた場合も、敷地の賃借権の移転について地主の承諾が必要です。この場合は、建物を取得した第三者自身が、承諾に代わる許可を申し立てます(20条1項)。要件や考慮事情、鑑定委員会の関与、地主の介入権は、19条の規定が準用されます(20条2項)。
注意を要するのは期限です。この申立ては、建物の代金を支払った後2か月以内に限りすることができます(20条3項)。この期間を徒過すると、承諾に代わる許可を申し立てることができなくなります。賃借権の譲受けについて地主の承諾を得ていない状態となるため、地主から無断譲渡を理由とする契約の解除や、建物収去・土地明渡しを求められるおそれがあります。解除が認められるかは、先に触れた背信的行為と認めるに足りない特段の事情の有無によりますが、競売で借地上の建物を取得する場合には、期限の管理が欠かせません。
手続の流れ
これらの事件は、借地条件の変更等の裁判手続として、借地借家法第4章に手続が定められています。実務では借地非訟と呼ばれます。
| 事項 | 内容 |
|---|---|
| 管轄 | 土地所在地の地方裁判所(当事者の合意があれば簡易裁判所も可・41条) |
| 審理 | 審問期日を開き、当事者の陳述を聴取 |
| 事実の調査 | 職権で事実を調査し、証拠調べは職権または申出による |
| 意見聴取 | 原則として鑑定委員会の意見を聴取(19条6項、20条2項) |
| 不服申立て | 決定書の送達を受けた日から2週間以内の即時抗告 |
| 裁判の効力 | 確定しなければ効力を生じない |
通常の訴訟と異なり、裁判所が職権で事実を調べ、鑑定委員会の意見を聴いたうえで判断する仕組みです。裁判は確定しなければ効力を生じないため、即時抗告がされれば、その分だけ売却も先に延びます。
実務上の対応
借地権付き建物の売却では、まず地主との交渉によって承諾を得るのが通常です。裁判所の手続は、交渉がまとまらない場合の手段であり、申立てから裁判の確定まで相応の期間を要します。19条の申立ては建物を譲渡する前に行うものであり、譲渡を済ませてから許可を求めることは予定されていません。売買契約を先に締結する場合には、地主の承諾または裁判所の許可を停止条件とするなど、許可の前に所有権が移転しない形にしておく必要があります。あわせて、承諾も許可も得られない場合の解除や手付金の取扱い、費用の負担も定めておくことになります。
裁判所の手続を見込む場合、売却の見通しには次の不確定な要素が伴います。
- 支払を命じられる給付の額は、鑑定委員会の意見を経て裁判所が定めるため、あらかじめ確定させることができません
- 地主の介入権の申立てが認められて確定すれば、予定していた買主への売却は実現しません
- 裁判が確定するまで許可の効力は生じず、確定後も6か月以内に譲渡しなければ効力を失います
- 競売・公売で建物を取得した場合は、代金の支払後2か月以内に申し立てなければなりません
いずれの局面でも、借地権の価格をどう見るかが判断の前提になります。承諾料の相当性を検討する場面でも、介入権が行使された場合の相当の対価を検討する場面でも、同じことがいえます。
ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス
当事務所では、争訟・紛争対応において、借地権の譲渡をめぐる交渉と借地非訟の手続に対応しています。これらの手続では、承諾料や介入権が行使された場合の対価といった、金額の妥当性そのものが争点になります。不動産鑑定士として評価実務を扱ってきた経験から、根拠を示した主張を行います。申立てに先立つ地主との交渉や、売買契約における条件の設計も、あわせて扱います(法務コンサルティング、法律意見書)。
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