ロジットパートナーズ法律会計事務所

2026年7月14日

会社法上の非上場株式の価格決定

目次

非上場株式の価格が問題になるのは、相続税の申告やM&Aの交渉の場面だけではありません。会社法は、株主が会社から退出する場面や、少数株主の株式がその意思にかかわらず取得される場面について、当事者が価格で合意できないときや提示された対価に不服があるときは、裁判所が価格を決定する仕組みを置いています。この記事では、価格決定が予定されている場面と、裁判所がどのように価格を定めるのかを整理します。

参考記事: 非上場株式の評価方法と適用場面(2025年7月8日)/非上場株式の税務上の時価と所得税基本通達59-6(2025年10月14日)

価格決定が予定されている場面

会社法は、株主が投下資本を回収する場面や、株主がその意思によらずに株式を手放すことになる場面について、価格の決定を裁判所に申し立てることを認めています。非上場会社で問題になりやすいものは次のとおりです。

場面価格決定の申立て条文上の評価基準
反対株主の買取請求117条2項ほか「公正な価格」
株式併合の買取請求182条の5第2項「公正な価格」
譲渡制限株式の譲渡144条2項資産状態その他一切の事情
相続人等への売渡請求177条2項資産状態その他一切の事情
全部取得条項付株式172条1項明文の基準なし
株式等売渡請求179条の8第1項明文の基準なし
表1:裁判所による価格決定が予定されている主な場面(会社法をもとに当事務所作成)

反対株主の買取請求

反対株主の株式買取請求は、定款変更により株式に譲渡制限や全部取得条項を付す場合(116条)、事業の全部または重要な一部を譲渡する場合(469条)、合併・会社分割・株式交換等の組織再編を行う場合(785条・797条・806条)、株式交付の親会社となる場合(816条の6)に認められます。価格の協議が調わないときは、場面に応じて117条2項・470条2項・786条2項・798条2項・807条2項・816条の7第2項により、裁判所に価格の決定を申し立てることができます。

譲渡制限株式と相続人等への売渡請求

非上場会社で典型的なものの一つが、譲渡制限株式の売買価格の決定(144条2項)です。株主が株式を譲渡しようとして会社に承認を求める際、承認しない場合には会社または指定買取人が買い取ることをあわせて請求しておくと、会社が承認しない旨を決定したときに買取手続へ進みます(138条1号ハ、140条1項)。売買価格は当事者の協議によって定めますが(144条1項)、会社と譲渡等承認請求者のいずれも、買取りの通知があった日から20日以内であれば、協議の成否にかかわらず裁判所に価格の決定を申し立てることができます(144条2項)。指定買取人が買い取る場合も同様です(144条7項)。

相続その他の一般承継により譲渡制限株式が承継された場合に、定款の定めに基づいて会社が相続人等に売渡しを請求する場面(176条1項)も、同じ構図をたどります(177条2項)。裁判所は、いずれの場面でも、請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を定めます(144条3項、177条3項)。

期間内に申立てがなく協議も調わなかった場合の帰結は、両者で異なります。譲渡制限株式では1株当たり純資産額に株式数を乗じた額が売買価格となり(144条5項)、相続人等への売渡請求では請求そのものが効力を失います(177条5項)。

少数株主の株式の強制取得

全部取得条項付種類株式の取得(172条1項)と、総株主の議決権の10分の9以上(定款でこれを上回る割合を定めた場合はその割合)を、自己と完全子法人の保有分を合算して有する特別支配株主による株式等売渡請求(179条の8第1項)は、少数株主の保有する株式を強制的に取得する手続で用いられます。これらの申立ての規定には、裁判所が価格を決定する際の基準が示されておらず、判断は裁判所に委ねられています。

株式等売渡請求はこの割合に達する株主でなければ用いることができないため、これに満たない場合には、株式の併合により少数株主の持株を1株に満たない端数とする方法が用いられます。反対株主は、自己の有する株式のうち併合によって1株に満たない端数となるものの全部を、公正な価格で買い取ることを請求でき(182条の4第1項)、価格の協議が調わないときは裁判所に決定を申し立てることができます(182条の5第2項)。締出しを目的とする併合では、対象となる少数株主の保有株式の全部がこれに当たるように設計されるのが通常です。

裁判所の裁量と「公正な価格」

法律が示す基準は、置かれている場合でも「公正な価格」「資産状態その他一切の事情を考慮して」という抽象的なものにとどまります。税務上の時価が通達で算定方法まで定められているのとは異なり、会社法の価格決定には画一的な算定ルールがありません。実務上は、当事者が評価書その他の資料を提出し、必要に応じて裁判所が公認会計士等を鑑定人に選任した上で、価格を決定します。

裁判目的の株式評価については、日本公認会計士協会の企業価値評価ガイドライン(経営研究調査会研究報告第32号)が一章を設けて整理しています。同ガイドラインは、「公正な価格」が何を意味するかは法律問題であって最終的には裁判所が判断する事柄であり、鑑定人はその解釈を前提として、解釈に沿った具体的な金額を意見として述べることになると整理しています。価格をめぐる争いでは、法律上の枠組みの確定と、その枠組みに沿った評価とが、役割として分かれることになります。

株式買取請求における「公正な価格」について、判例は、申立てを受けた裁判所は買取請求権が付与された趣旨に従い、その合理的な裁量によって公正な価格を形成すべきものとしています(最高裁平成23年4月19日決定・民集65巻3号1311頁)。その趣旨は、会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面、反対する株主に退出の機会を与えるとともに、退出を選択した株主には企業価値を適切に分配することにあるとされています。

非流動性ディスカウントをめぐる2つの決定

裁判所の裁量は、どの評価手法を用いるかにも及びます。争いになりやすいのが、非上場株式には市場性がないことを理由とする減価、いわゆる非流動性ディスカウントの可否です。最高裁は、場面の異なる2件で異なる結論を示しています。

決定場面評価手法減価の可否
平成27年3月26日反対株主の買取請求収益還元法否定
令和5年5月24日譲渡制限株式の売買価格DCF法肯定
表2:非流動性ディスカウントに関する最高裁の判断(各決定をもとに当事務所作成)

最高裁平成27年3月26日決定(反対株主の買取請求)

吸収合併により消滅する非上場会社の株主が、785条1項に基づき買取りを請求し、786条2項により価格の決定を申し立てた事案です(民集69巻2号365頁、決定全文)。鑑定人は、収益還元法により将来期待される純利益の現在価値の合計を約3億6158万3000円と算定した上で、25%の非流動性ディスカウントを行い、1株80円との意見を述べ、原審もこれを採用しました。

最高裁は、評価手法の選択が裁判所の合理的な裁量に委ねられていることを確認した上で、次のように述べました。

一定の評価手法を合理的であるとして,当該評価手法により株式の価格の算定を行うこととした場合において,その評価手法の内容,性格等からして,考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定することは許されないというべきである。

非流動性ディスカウントは,非上場会社の株式には市場性がなく,上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものであるところ,収益還元法は,当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって,同評価手法には,類似会社比準法等とは異なり,市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。

出典: 最高裁平成27年3月26日第一小法廷決定

減価前の評価額を発行済株式総数338万7000株で除すと1株当たり約106.75円となり、最高裁は、抗告人の主張額である1株106円を買取価格としました。

最高裁令和5年5月24日決定(譲渡制限株式の売買価格)

これに対し、非上場会社が144条2項に基づき売買価格の決定を申し立てた事案では、反対の結論が示されました(決定全文)。鑑定人はDCF法により1株当たり7524円および6448円と算定した上で30%の非流動性ディスカウントを行い、原審はこれに依拠して1株5266円および4514円と定めています。

最高裁は、次のように判断しました。

会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定の手続は、株式会社が譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合に、譲渡を希望する株主に当該譲渡に代わる投下資本の回収の手段を保障するために設けられたものである。そうすると、上記手続により譲渡制限株式の売買価格の決定をする場合において、当該譲渡制限株式に市場性がないことを理由に減価を行うことが相当と認められるときは、当該譲渡制限株式が任意に譲渡される場合と同様に、非流動性ディスカウントを行うことができるものと解される。このことは、上記譲渡制限株式の評価方法としてDCF法が用いられたとしても変わるところがないというべきである。

出典: 最高裁令和5年5月24日第三小法廷決定

ただし、評価額の算定過程で市場性がないことが既に十分に考慮されている場合には、二重の減価となるため相当でないとされています。この事案では、割引率の算定に類似上場会社の数値が用いられる一方、株式に市場性がないことが考慮された形跡はないと認定されました。あわせて最高裁は、平成27年決定について「事案を異にし、本件に適切でない」と述べています。

2つの決定の関係

同じ非上場株式の評価でありながら結論が分かれた背景には、手続の趣旨の違いと、採用された評価手法の性格の双方があります。組織再編に反対した株主の買取請求は、会社の基礎に本質的変更をもたらす行為に反対する株主に退出の機会を与え、企業価値を適切に分配する制度です。これに対し、譲渡制限株式の売買価格の決定は、譲渡を承認されなかった株主に、その譲渡に代わる投下資本の回収手段を保障する制度であり、本来行われるはずだった任意の譲渡に近い評価が想定されます。あわせて、平成27年決定は収益還元法が市場における取引価格との比較を含まないことを、令和5年決定はDCF法の算定過程で市場性の欠如が考慮されていなかったことを、それぞれ理由に挙げています。手法の名称が同じでも、算定の中身によって結論は変わり得ます。

株式の併合や全部取得条項付種類株式による取得のように、株主が意思にかかわらず株式を手放す場面は、譲渡を希望した株主に代わりの回収手段を与える場面とは性格が異なります。株式の併合の反対株主の買取請求が、組織再編等と同じく「公正な価格」を基準としていること(182条の4第1項)も踏まえると、平成27年決定の枠組みに近い場面と考えられます。ただし、令和5年決定がこの点を判断したものではない以上、確定した整理として扱うことはできません。

いずれにしても、非流動性ディスカウントの可否を非上場株式一般について論じることはできません。どの手続に基づく評価か、そしてその手法の中で市場性の欠如が既に織り込まれていないかを、個別に確認する必要があります。

手続上の期間と申立適格

価格決定の申立てには、場面ごとに期間の制限があります。組織再編等に反対した株主の買取請求と株式の併合では、まず協議のための期間が置かれ、協議が調わないことを前提に申立ての期間が始まります。

場面申立ての期間条文
反対株主の買取請求効力発生日から30日以内に協議不調のとき、その後30日以内117条2項ほか
株式併合の買取請求効力発生日から30日以内に協議不調のとき、その後30日以内182条の5第2項
譲渡制限株式の譲渡買取通知の日から20日以内144条2項
相続人等への売渡請求売渡請求の日から20日以内177条2項
全部取得条項付株式取得日の20日前の日から前日まで172条1項
株式等売渡請求取得日の20日前の日から前日まで179条の8第1項
表3:価格決定の申立期間(会社法をもとに当事務所作成)

申し立てることができる者も限られています。最高裁平成29年8月30日決定(決定全文)は、特別支配株主の株式売渡請求について会社が承認し、対価の額等が公告された後に売渡株式を譲り受けた者は、179条の8第1項による売買価格の決定の申立てをすることができないと判断しました。

評価の面でも、申立てをしてから準備を始めるのでは間に合いません。どの評価手法を前提とし、その中で市場性の欠如をどう扱うかによって結論が動くため、価格を提示する段階から、根拠と整合性を確認しておくことになります。

ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス

当事務所では、バリュエーションにおいて、会社法上の価格決定を見据えた非上場株式の評価に対応しています。当事務所には弁護士・公認会計士の双方の資格を持つメンバーが在籍しており、どの手続に基づく評価かという法律上の枠組みの確定と、その枠組みに沿った評価手法の選択とを、分断なく検討できることが特徴です。本記事で述べたとおり、同じ非上場株式であっても、手続の趣旨と採用する手法によって減価の可否は変わります。評価書を作成する段階から、価格の根拠と手続との整合性を確認します。

譲渡承認請求への対応、相続により分散した株式の集約、少数株主の締出しといった場面では、価格の妥当性とあわせて、手続の適法性や期間の管理も問題になります。価格決定の申立てとその対応、申立てに至る前の交渉も、あわせて扱います(法務コンサルティング争訟・紛争対応)。

関連記事

経済産業省「有限責任事業組合(LPS)」の制度概念図

2025年3月6日

投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)概要と令和6年改正

投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)は、主にベンチャーキャピタル(VC)やプライベート・エクイティ(PE)ファンドが活用する投資スキームである投資事業有限責任組合(LPS)の枠組みを定めた法律です。令和6年に改正が行われ、既に実

法務コンサルティング 法律意見書 契約書作成・レビュー 会計コンサルティング バリュエーション 登記申請

2026年4月21日

共有不動産の管理と解消

相続や共同出資により不動産が複数人の共有になると、修繕や賃貸、売却を行う際に、その内容に応じて他の共有者との調整が必要になります。令和3年の民法改正は、共有物の使用・管理・変更の決定ルールを整理し、所在等不明共有者を除いて意思決定を行うための裁判手続を新設するとともに、共有関係を解消するために裁判所が命じることのできる分割方法を明文化しました。

争訟・紛争対応 法務コンサルティング 登記申請

2026年3月25日

令和8年地価公示の結果

令和8年地価公示の結果が国土交通省より発表されました。本記事では、当事務所が存する東京23区を中心に、地価公示結果の概要を紹介します。

争訟・紛争対応 法務コンサルティング

まずはご相談ください

ご相談内容をお聞きし、最適なサービスをご提案いたします。

お問合せはこちら