ロジットパートナーズ法律会計事務所

2025年7月14日 更新: 2026年7月16日

AI推進法の成立

「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」が2025年5月28日に成立し、6月4日に公布されました(令和7年法律第53号)。AI政策を総合的に扱う、我が国で初めての法律です。

報道では「AI法」「AI新法」と呼ばれていますが、EU AI Act のような規制法ではありません。何が定められ、何が定められていないかを整理します。

罰則も禁止規定もない

この法律は全28条で、目的・定義・基本理念・関係者の責務(第1章)、国が講ずる基本的施策(第2章)、人工知能基本計画(第3章)、人工知能戦略本部の設置(第4章)で構成されています。罰則規定はなく、事業者に対する禁止行為も許認可も定められていません。

第1章から第2章までの多くは、国が施策を講ずる旨を定めたものです。企業を名宛人とする条文は限られます。

公布と同時に施行されたのは第1章・第2章です。戦略本部と基本計画に関する第3章・第4章は、公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとされています(附則第1条)。

企業実務との関係で重要な条文

企業実務との関係では、第7条と第16条が重要です。

活用事業者の責務(第7条)

(活用事業者の責務)
第七条 人工知能関連技術を活用した製品又はサービスの開発又は提供をしようとする者その他の人工知能関連技術を事業活動において活用しようとする者(以下「活用事業者」という。)は、基本理念にのっとり、自ら積極的な人工知能関連技術の活用により事業活動の効率化及び高度化並びに新産業の創出に努めるとともに、第四条の規定に基づき国が実施する施策及び第五条の規定に基づき地方公共団体が実施する施策に協力しなければならない。
出典: 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和七年法律第五十三号)第七条

生成AIを含むAI関連技術を業務に利用する企業は、広く「活用事業者」に含まれ得ます。研究開発機関(第6条)と国民(第8条)については国等の施策に「協力するよう努めるものとする」とされているのに対し、活用事業者については「協力しなければならない」と書き分けられています。ただし協力の中身は国が実施する施策の側に委ねられており、従わなかった場合の効果は定められていません。

国が行う調査研究等(第16条)

(調査研究等)
第十六条 国は、国内外の人工知能関連技術の研究開発及び活用の動向に関する情報の収集、不正な目的又は不適切な方法による人工知能関連技術の研究開発又は活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析及びそれに基づく対策の検討その他の人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に資する調査及び研究を行い、その結果に基づいて、研究開発機関、活用事業者その他の者に対する指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。
出典: 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和七年法律第五十三号)第十六条

名宛人は国であり、事業者に義務を課す条文ではありません。国内外の動向の把握に加えて、不正な目的または不適切な方法によるAIの研究開発・活用によって国民の権利利益の侵害が生じた事案が、国の分析対象になります。その結果に基づく措置として、活用事業者への指導・助言・情報の提供が挙げられています。

この条文は、悪質な事業者名の公表を根拠づけるものとして紹介されることがあります。条文が挙げているのは指導・助言・情報の提供であり、公表は明記されていません。国会審議でもこの点が取り上げられ、城内AI戦略担当大臣(当時)は次のように答弁しています(要旨)。

調査結果の公表は、公表した場合としない場合のメリット、デメリット等を比較検討し、かつ企業秘密等に留意して判断することとなる。(中略)事業者名については原則公表とはしておらず、個別の案件ごとに事業者名の公表の是非について適切に検討していく
出典: 参議院常任委員会調査室・特別調査室「AI法案をめぐる国会論議」(立法と調査 2025.9 No.478)

公表が制度として組み込まれているわけではなく、かといって否定されているわけでもない、という位置づけです。対象や基準は条文から確定できず、今後の運用に委ねられています。

実務に影響するのは指針の側

この法律は、事業者に報告・届出・許可の取得といった手続義務を課しておらず、違反に対する制裁も定めていません。社内規程やガイドラインの整備が必要になるかどうかは、この法律ではなく、個人情報保護法・著作権法や取引先との契約といった従来からの根拠によって決まります。AI利用のルールを検討する際の実務上の軸も、引き続きAI事業者ガイドライン(2025年3月改訂の第1.1版)です。

もっとも、第13条は、国が「国際的な規範の趣旨に即した指針の整備その他の必要な施策を講ずる」と定めています。この法律自体ではなく、これに基づいて整備される指針の側が、実務に影響する内容を持つことになります。違反に制裁金を伴う規制を法律そのもので定めたEU AI Actとは、対照的な組み立てです。

※本記事は法律および指針の内容を整理したものです。個別のAI利用について検討が必要な場合は、対象となるサービスや用途に応じた確認が必要になります。

ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス

当事務所では、AIガバナンス構築において、生成AI利用に関する基本方針の策定、リスクの識別・評価と対応方針の検討、利用規程・手順書の作成、役職員への教育・研修まで対応しています。AIモデルの開発を含む技術的な実務経験を踏まえ、仕組みの実態に即した検討を行います。

法令やガイドラインの適用関係の整理も、あわせてご相談いただけます(法務コンサルティング)。

2026.7.16 追記: 第3章・第4章は2025年9月1日に施行され、全面施行となりました。第13条に基づく適正性確保指針が2025年12月19日に人工知能戦略本部で決定され、人工知能基本計画は2025年12月23日に閣議決定(2026年7月14日に第Ⅱ期計画を閣議決定)。AI事業者ガイドラインは2026年3月31日に第1.2版が公表されています。

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