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法務省は2026年8月21日、ガイドライン「ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係について」を公表しました。令和5年8月のガイドラインを補完・拡充し、サービスの設計と運用に着目した判断の枠組みを示すものです。
対象は、企業等の事業者が自己の事業活動に関連して利用するサービスの提供場面です。消費者を主たる対象とするサービスについては、別途の考慮が必要となる場合があるとされています。第72条の個別の要件に関する解釈や、判例が示してきた同条の解釈そのものを変更するものではありません。非弁行為に当たるかどうかは、最終的には法と証拠に基づく裁判所の判断に委ねられることも明示されています。
参考記事: AI事業者ガイドライン第1.2版の公表(2026年5月12日)/税理士法の業務範囲とAIによる税務サポート(2025年12月9日)
規制対象行為の主体
弁護士法第72条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、法律事件に関する法律事務の取扱いまたはその周旋を業とすることを禁じています。
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
出典: 弁護士法第72条
同条は、人の行為を対象とする罰則の構成要件を定めています。ガイドラインは、プロンプト等を入力し、それに従ってAIに出力結果を生成・表示させるという具体的な利用方法を取り上げています。現在サービス展開されている一般的な同種サービスの提供形態等を踏まえる限りにおいて、その最終的な判断は基本的に利用者に委ねられているとしています。これを出発点として、どのような場合に利用者側の行為が提供者の行為として評価されるかを整理しています。
同条の「その他一般の法律事件」に当たるには、法的紛議が生じることがほぼ不可避に想定され得るという意味での「事件性」が必要であると考えられています(最高裁判所平成22年7月20日第一小法廷決定・刑集64巻5号793頁)。ガイドラインは、事件性の要否とその程度については様々な見解があり得るとしたうえで、これまでの法務省の立場である事件性必要説を踏襲しています。同決定を参考に、法的紛議が生じることがほぼ不可避に想定され得るかという基準を用いています。
提供者が「事件性」のある案件の法律事務を取り扱ったといえるには、利用者側の行為が、提供者の企図した法務業務支援の契機にすぎないといえる事情が必要であるとされています。サービス提供開始の時点で、その設計・機能に照らし、利用者によるそのような案件への利用が、具体的かつ現実的な可能性として当然に想定されている場合などです。判断にあたっては、サービスの目的、中核的機能・設計、用いられている技術の特性、利用者の属性やリテラシー、利用目的といった事情が勘案されます。
価値中立的なサービスという枠組み
ガイドラインは、サービスが「事件性」のある案件に利用されることを当然の前提としないものを、価値中立的なサービス提供と呼んでいます。そのうえで、次の三つを満たす場合には、一般に第72条に抵触しないと考えられるとしています。
- ①サービスの設計等が、そうした案件に関して利用させることを目指したものでないこと
- ②そうした利用に特化した、あるいはそれが念頭に置かれた特性・機能を持たないこと
- ③ガバナンス措置を講じるなどして、利用者による不適切な利用を回避するための適切な体制を整備していること
①②はサービスの客観的な性質に関わり、③は提供者の主観的な認識と対応に関わるもので、両者は相互補完の関係に立つと整理されています。もっとも、①②が充足されない場合には、③の措置を講じてもそれのみで価値中立性が認められるわけではないとされています。設計・機能が「事件性」のある案件への利用に特化しているようなときです。
この価値中立性の考え方の背景として、ガイドラインは注で、ファイル共有ソフトの提供が著作権侵害の幇助に当たるかが争われた事件の最高裁決定を引いています。
かかるソフトの開発行為に対する過度の萎縮効果を生じさせないためにも,単に他人の著作権侵害に利用される一般的可能性があり,それを提供者において認識,認容しつつ当該ソフトの公開,提供をし,それを用いて著作権侵害が行われたというだけで,直ちに著作権侵害の幇助行為に当たると解すべきではない。
出典: 最高裁判所平成23年12月19日第三小法廷決定(刑集65巻9号1380頁)
同決定は、提供者が利用者に対して違法利用をしないよう常時警告を発していたことを間接事実の一つとして、侵害利用の蓋然性が高いことを認識・認容していたとまでは認め難いという結論を導いています。ガイドラインは、適切なガバナンス措置を講じて不適切な利用を回避する体制を整備していることにも、同様の位置づけを与えています。提供者が不適切な利用の蓋然性が高いことを認識・認容しているとまではいえないことを指し示す事情の一つとなり得るとしています。
抵触するおそれがある場合
ガイドラインは、設計・機能と用法の両面について、「事件性」のある案件に利用させることを前提としていると評価され得る例を挙げています。
設計・機能の面では、法的紛議が現に顕在化している案件や、法的紛議が生じることがほぼ不可避に想定され得る案件の処理を目指して設計されたサービスが挙げられています。弁護士の関与なしに訴状、準備書面、答弁書、証拠説明書その他の裁判所への提出書面や和解契約書等を作成することに特化した機能を持つものが例です。単にファイルをアップロードしてプロンプトを自由に入力できるチャットボット機能の範囲を超えて、そうした利用を積極的に容認・助長する特性・機能を備える場合も含まれます。
用法の面では、設計・機能上は価値中立的と評価し得る場合であっても問題が生じ得るとされています。非弁活動を現に行っている者やこれから行おうとする者に対して、それを認識・認容しながら提供するケースが例です。また、例外的とはいえない範囲の利用者が「事件性」のある案件に利用する蓋然性が高いと認められる具体的な状況下で、これを認識・認容しながら提供を継続する場合も挙げられています。いずれの例も、実際にサービスが「事件性」のある案件に関する法律事務に利用されていると認められることを前提としています。そのうえで合理的な措置を講じることなく漫然と提供を続ける場合には、実質的に法律事務を取り扱っていると評価せざるを得ないとされています。合理的な措置としては、利用停止、警告の発出、弁護士への相談の案内、利用範囲の制限、利用規約違反の指摘が挙げられています。
利用動向の把握とは、利用者からのフィードバック、問合せ、利用ログの分析等を通じて認識した場合をいうものとされています。提供者に積極的な監視義務を課すものではないことも注記されています。
ガバナンス上の留意・推奨事項
ガイドラインは、ハルシネーションや出力結果のバイアスが完全には払拭できないという現状の技術的限界を前提としています。ガバナンスが十分に機能しないサービスが広く社会実装されれば、第72条の保護法益が害される事態を招きかねないという問題意識を示しています。AI事業者一般に共通する留意事項としては、個人情報保護法や著作権法に適合した取扱いの確保が挙げられています。あわせて、総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン(AI事業者ガイドライン第1.2版の公表)その他の政府指針で推奨されている取組を自主的に行うことも重要であるとしています。
これに加えて、AI等法務業務支援サービスに特有の事項が五つ挙げられています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対応窓口 | 問合せ・通報やインシデントに対応できる窓口を日本国内に設けることを推奨 |
| 弁護士の関与 | 「鑑定」等にわたり得る機能について、仕様レビューや表示のチェックへの実質的な関与 |
| 表示と適格性 | 弁護士に代わる判断と誤認させる表示をしない。申込時の確認、利用規約への明記、重大な違反時の利用停止 |
| 断り書き | 利用範囲・禁止事項の明示。入力前や出力結果という表示場所は例示 |
| UI・機能設計 | 高リスク機能での注意表示の強化、表示できる場合の根拠・参照元の明示、弁護士への相談を促す仕組み |
ナレッジマネジメントや利用者データ内からの検索・要約を超えて「鑑定」等にわたり得る機能を持つ場合には、我が国の弁護士資格を有する者がサービスや機能の設計を監修し、または実質的に関与することが望ましいとされています。個別の事案の経緯や背景事情を法的に処理して契約書案や修正案を作成する機能、具体的な事案に応じた法的リスクの有無や程度を抽出・摘示する機能などが挙げられています。ここでいう具体的な関与は、形式的な名義の貸与にとどまらず、設計・機能・出力の方法について実際に助言を行うことなどを指すとされています。
弁護士への相談を案内する仕組みについては、弁護士法第27条との関係が注記されています。同条は、弁護士が非弁行為をする者から事件の周旋を受けることを禁じています。非弁業者が特定の弁護士に特定の案件を継続的・反復的に紹介する行為は、同条の禁止する行為に抵触するおそれがあるとされています。他方、弁護士への相談を一般的に案内することは特定の弁護士への特定案件の紹介には当たらず、同条の禁止する行為には該当しないと整理されています。
ガイドラインは出力制限を推奨事項には含めていませんが、策定の過程では、訴状や準備書面といった法的紛議を前提とした書面の出力に制限をかける措置も検討されました。もっとも、現時点の技術水準では、第72条との抵触が生じ得ない適法な出力に影響を及ぼさずに、実効的あるいは合理的な出力制限の範囲を明確化することは困難であるとされています。範囲を明示しないまま推奨事項とすれば萎縮効果が大きいことも挙げられ、出力制限は今後の検討課題とされました。そのうえで、利用者のリテラシー向上に努めることや、不適切な利用を把握した場合に注意・警告を発することが挙げられています。悪質なケースでは、利用停止に向けた措置をとることも挙げられています。
今後のルールメイキング
ガイドラインと同じ日に、AI等を活用した法務業務及びその支援の将来像を見据えたルールメイキングの在り方検討のロードマップについても公表されています。規制改革推進会議の答申を受けたものです。現行の弁護士法やガイドラインの限界と司法への影響を踏まえ、AI等を活用した法務業務とその支援の将来像を見据えたルールメイキングの在り方を引き続き検討するとされています。
令和8年度中を目途に有識者検討会を立ち上げ、令和9年度中を目途に取りまとめを目指すという流れが示されています。取りまとめに基づく措置は令和10年度から令和11年度を目途とされ、仮のものと注記されています。検討会の構成員には、法学やAIガバナンスの研究者、裁判官・弁護士等の法律実務家、AI・情報工学の研究者、経済界の有識者、消費者保護の専門家が想定されています。今回のガイドラインは現行法の解釈指針であり、AI等を活用した法務業務を将来どのような制度の下に置くかは、この有識者検討会で引き続き検討される予定です。現時点で法改正その他の具体的な措置の内容が決まっているわけではありません。
ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス
当事務所では、法務コンサルティングにおいて、AIを用いたサービスが業法の規制に触れるかどうかの検討に対応しています。利用規約や画面表示の設計、断り書きの文言の検討も扱っています(契約書作成・レビュー、規程・ポリシー整備)。社内のAI利用に関する体制整備も、あわせて扱います(AIガバナンス構築)。
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