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AIと著作権の問題は、AI生成物に著作権が認められるかという出力側の論点と、他人の著作物を学習に用いてよいかという入力側の論点に大別されます。本記事がテーマとする入力側では、2025年に米国の状況が大きく動きました。米国著作権局がAIレポートの第3部「Generative AI Training」を公表し、連邦地裁ではフェアユースの成否を判断する判決が3件相次ぎ、15億ドルの和解も生まれています。なお、出力側の論点は米国著作権局AIレポートPart 2「Copyrightability」概要で扱っています。
参考記事: 米国著作権局AIレポートPart 2「Copyrightability」概要(2025年2月2日)/生成AIの著作権リスクと社内規程の設計(2025年9月16日)
レポートPart 3の枠組み
Part 3は、3部構成のAIレポートの最終回として、著作物をAIモデルの学習に用いることの著作権法上の評価を扱います。2025年5月9日に公開前版(Pre-Publication Version)として公表され、最終版で分析・結論に実質的な変更は行わないと説明されています。
レポートはまず、学習データの収集・加工から学習の過程まで、生成AIの開発には複数の複製が伴い、ライセンスまたはフェアユース等の抗弁がなければ著作権侵害が成立しうることを確認します。モデルが学習した著作物の表現を記憶している場合には、モデルの重み自体の複製も侵害となり得るという条件付きの整理も示されています。
ここでいうフェアユース(公正利用)は、米国著作権法107条が定める一般的な抗弁です。日本の著作権法は、引用や私的複製のように「この場面なら許諾なく利用できる」という規定を場面ごとに列挙する方式をとっています。米国はこれと異なり、次の4要素を個別事案ごとに総合的に衡量して、利用の適法性を判断します。
- ① 利用の目的・性質(商業性の有無や、元の著作物と異なる目的・性格を加える「変容性」の程度)
- ② 利用された著作物の性質
- ③ 利用された部分の量・実質性
- ④ 著作物の潜在的な市場・価値への影響
レポートは、この4要素を学習利用に当てはめて、次の整理を示しました。
Various uses of copyrighted works in AI training are likely to be transformative. The extent to which they are fair, however, will depend on what works were used, from what source, for what purpose, and with what controls on the outputs—all of which can affect the market.
出典: U.S. Copyright Office, Copyright and Artificial Intelligence, Part 3: Generative AI Training
学習利用の多くは変容的(transformative)だとしつつ、フェアユースの成否は、何を・どこから・何のために使い、出力をどう統制するかに依存する、という整理です。分析・研究用途での利用は学習元の著作物を代替しにくい一方、大量の著作物を商業的に利用して既存市場で競合する表現的コンテンツを生成すること、とりわけ違法アクセスによる場合は、確立されたフェアユースの範囲を超えるとしています。第4要素(市場への影響)については、売上の喪失やライセンス機会の喪失に加え、AI生成物が市場にあふれることによる希薄化(market dilution)まで考慮する立場を示しました。
立法対応については、学習ライセンス市場が急速に形成されつつあることを踏まえ、政府の介入は時期尚早とし、市場の隙間が埋まらない領域では、権利者団体が非会員の権利者の分も含めて一括して利用許諾できるようにする拡大集中許諾(extended collective licensing)のような制度の検討がありうるとしています。
2025年の3判決
多数のAI著作権訴訟が米国で係属する中、学習利用がフェアユースに当たるかについて2025年に本案の判断が示されたのが、次の3件です。
| 被告 | 判断 | 結論 |
|---|---|---|
| Ross | 2025年2月・デラウェア連邦地裁 | フェアユース否定 |
| Anthropic | 2025年6月・カリフォルニア北部連邦地裁 | 学習は肯定・海賊版の取得保存は否定 |
| Meta | 2025年6月・カリフォルニア北部連邦地裁 | フェアユース肯定 |
Thomson Reuters v. Ross Intelligence(2025年2月11日)は、リーガルリサーチAIの学習にWestlawの判例要旨(ヘッドノート)を用いた事案で、フェアユースを否定しました。生成AIではなく、原告の著作物と同じ目的で競合ツールを開発するための利用だったことが決め手であり、射程は限定的ですが、学習利用への同抗弁を否定した最初の判断です。
Bartz v. Anthropic(2025年6月23日)は、書籍を用いた大規模言語モデルの学習そのものを極めて変容的(exceedingly transformative)だとしてフェアユースを認め、購入した紙の書籍を裁断してデジタル化した行為もフェアユースとしました。一方、海賊版サイトから取得した書籍を恒久的な社内ライブラリとして取得・保存していた行為は学習とは別個の利用であり、フェアユースに当たらないとして、損害賠償の審理に進むこととされました。その後、2025年9月に総額15億ドル(対象作品1点あたり約3,000ドル)で和解することが公表され、裁判所の承認手続に入っています。学習の適法性が認められても、データの取得経路が巨額の訴訟・和解リスクにつながり得ることを示した事案です。
Kadrey v. Meta(2025年6月25日)は、Metaによる書籍を用いた学習についてフェアユースを認め、Meta勝訴の略式判決(正式な事実審理を経ずに下す判決)としました。Metaも海賊版サイト由来の書籍データを用いていましたが、判決は、取得元が海賊版であることだけで直ちにフェアユースが否定されるわけではないとしており、この点でAnthropic判決とはアプローチが異なります。ただし判決は、原告側が市場への具体的な損害(希薄化を含む)を立証できなかったことを理由としており、学習利用が一般に適法だと判断したものではないと明言しています。立証が尽くされた別の事案では結論が変わりうる、含みのある勝訴です。
3件を通じてみると、生成AIの学習の変容性はAnthropic・Metaの両判決で認められた一方、非生成AIで原告と直接競合するRossでは変容性が否定されました。海賊版由来のデータの扱いは両判決でアプローチが分かれており、統一的なルールはまだ形成されていません。市場への影響、とりわけ生成物による市場の希薄化は、レポートPart 3とも共通する今後の主要な争点です。
日本法との構造の違い
日本では、著作権法30条の4が情報解析等の非享受目的の利用を原則として許諾不要とする明文の権利制限を置いており、個別事案ごとにフェアユースを衡量する米国とは構造が異なります。もっとも、30条の4にも著作権者の利益を不当に害することとなる場合を除外するただし書があり、生成AIの著作権リスクと社内規程の設計で整理したとおり、文化庁の「考え方」も享受目的の併存や市場との競合による限界を示しています。法的な判断枠組みは大きく異なるものの、データの入手方法、出力の管理、既存市場への影響が実務上無視できない考慮要素である点には共通性があります。
米国でサービスを展開する企業や米国製モデルを利用する企業にとっては、フェアユースの成否が個別事案の事実に依存する以上、利用契約における知的財産権侵害の補償条項の範囲、学習データの出所に関する開発側の説明、出力の類似性管理の仕組みを確認しておくことが、リスク配分の実務になります。
ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス
当事務所では、AIガバナンス構築において、生成AIの開発・利用に伴う著作権リスクの整理と社内規程・運用への落とし込みに対応しています。AIサービスの利用契約や開発委託契約における補償条項・データ条項の確認は契約のレビューとして(契約書作成・レビュー)、学習データの取扱いの適法性を書面で整理する必要があるときは意見書の作成として扱います(法律意見書)。
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