ロジットパートナーズ法律会計事務所

2024年5月21日 更新: 2026年8月22日

暗号資産の会計処理と法人税務

目次

法人が暗号資産を保有する場合の会計処理を、実務対応報告第38号を中心に整理します。2023年11月に特定の電子決済手段(ステーブルコイン)を対象とする実務対応報告第45号が、12月には米国で暗号資産を公正価値で測定する会計基準が公表されるなど周辺の基準整備も進んでおり、保有するトークンにどの基準が適用されるかの確認がまず必要になります。

保有するトークンの類型と適用基準

「トークンを保有している」といっても、その法的性質によって適用される会計基準は異なります。まず全体像を整理します。

保有するもの適用される取扱い
暗号資産実務対応報告第38号(暗号資産独自の処理)
セキュリティトークン実務対応報告第43号(有価証券に準じた処理)
電子決済手段実務対応報告第45号(券面額ベースの処理)
表1:トークンの類型と会計上の取扱い(各実務対応報告をもとに当事務所作成)

資金決済法上の暗号資産(ビットコイン等)には、実務対応報告第38号「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」(2018年3月公表)が適用されます。次節以降で詳しく扱います。

金融商品取引法上の電子記録移転有価証券表示権利等(いわゆるセキュリティトークンの代表的な類型)には、実務対応報告第43号(2022年8月公表)が適用されます。トークン化によって基礎となる権利の会計上の性質が変わるわけではなく、金融商品会計基準等における有価証券への該当性に応じて、従来の枠組みで処理します。

資金決済法上の電子決済手段のうち第1号から第3号のもの(法定通貨の価値と連動し券面額での払戻しが約されている、いわゆるステーブルコイン)には、実務対応報告第45号(2023年11月17日公表)が適用されます。保有者は取得時に券面額に基づく価額で資産計上して取得価額との差額を損益処理し、期末も券面額で評価します。券面額での払戻しを前提とする決済手段としての性質から、市場価格を基礎として期末評価する暗号資産とは取扱いが異なります。

2026.8.22 追記: 2026年8月17日、令和7年資金決済法改正を受けた実務対応報告第45号の改正案(実務対応報告公開草案第74号)が公表されています(コメント期限は2026年10月19日)。

なお、NFTのようにこれらのいずれにも該当しないトークンには、直接参照できる基準がありません。取引の実態に即して、既存の会計基準の考え方から個別に処理を検討することになります。

実務対応報告第38号の基本

範囲

対象は資金決済法に規定する暗号資産です。ただし、自己(関係会社を含む)の発行した暗号資産は範囲から除かれています。一方、マイニングにより取得した暗号資産は、通常は他者が発行したものであるため範囲に含まれます。

暗号資産は私法上の位置づけが明確でないものの、売買・換金を通じて資金の獲得に貢献しうることから会計上の資産として扱われます。その上で、外国通貨・金融資産・棚卸資産・無形固定資産のいずれの既存基準にもなじまないという整理から、暗号資産独自の会計処理が定められました。

「活発な市場」の有無で分かれる期末評価

38号の中心となる定めは、期末評価です。

暗号資産交換業者及び暗号資産利用者は、保有する暗号資産(暗号資産交換業者が預託者から預かった暗号資産を除く。以下同じ。)について、活発な市場が存在する場合、市場価格に基づく価額をもって当該暗号資産の貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理する。
出典: 実務対応報告第38号第5項

有価証券のような保有目的による区分(売買目的・その他有価証券等)はなく、活発な市場が存在する限り、保有目的を問わず時価評価して評価差額が当期の損益に直入されます。決済手段として保有していても、価格変動がそのまま損益計算書に現れる点は、暗号資産の保有を検討する際に最初に押さえておくべき特徴です。

活発な市場が存在しない暗号資産は、取得原価で評価します。期末の処分見込価額(ゼロまたは備忘価額を含む)が取得原価を下回る場合はその処分見込価額まで帳簿価額を切り下げ、切下げ後の戻入れは行いません(切放し法)。

「活発な市場が存在する場合」とは、継続的に価格情報が提供される程度に、暗号資産取引所または暗号資産販売所において十分な数量・頻度で取引が行われている場合をいいます。取引所ごとの価格が著しく異なる場合や、売手と買手の希望価格差が著しく大きい場合には、通常、市場は活発ではないと判断されます。ビットコインのような主要な暗号資産は通常前者に、マイナーなトークンは後者に該当することが多いと考えられますが、判断は個々の暗号資産の実態に応じて行います。

期末評価に用いる市場価格は、保有する暗号資産の種類ごとに、通常使用する自己の取引実績の最も大きい取引所・販売所の取引価格を用います。

売却損益と開示

売却損益は、売買の合意が成立した時点(約定時)で認識し、売却収入から売却原価を控除した純額を損益計算書に表示します。また、期末に保有する暗号資産について、貸借対照表価額の合計額と、活発な市場の有無の別・種類ごとの保有数量および貸借対照表価額の注記が求められます(重要性が乏しい場合は省略できます)。

基準が未整備の領域

38号は自己の発行した暗号資産を範囲から除外しているため、資金決済法上の暗号資産に該当するICOトークンについては、発行者側の会計処理を直接定める基準が現在もありません。企業会計基準委員会は2022年3月にICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理を公表して意見募集を行いましたが、基準開発には至っていない段階です。発行スキームを検討する場合、会計処理の拠り所を個別に整理する必要があります。

法人税務との関係

法人税では、法人税法上の「市場暗号資産」(活発な市場が存在する暗号資産として政令で定めるもの)は、一定の例外を除き期末に時価評価し、評価損益は課税所得に含まれます(法人税法61条)。売買目的外の株式等を保有する場合とは異なり、未実現の値上がり益が課税所得に反映され得る点が特徴です。

この期末時価評価課税に対しては、令和5年度税制改正で、自己が発行し発行時から継続して保有する暗号資産のうち譲渡制限等の要件を満たすもの(特定自己発行暗号資産)を対象から除外する措置が講じられました。さらに、令和6年度税制改正では、第三者が発行した暗号資産についても、継続的な譲渡制限が付されており、その旨の認定資金決済事業者協会における公表等の要件を満たすもの(特定譲渡制限付暗号資産)について、時価法と原価法のいずれかを選択できることとされました。原価法を選択すれば、期末の評価損益は課税所得に反映されません(評価方法を選定しなかった場合は原価法によります)。改正法は2024年3月に成立し、2024年4月1日以後に終了する事業年度から適用されています(国税庁「暗号資産の評価方法の見直し等」)。

この見直しは、金融庁が令和6年度税制改正要望において、キャッシュフローを伴わない未実現の評価損益への課税が、ブロックチェーン技術を活用した事業開発等のために暗号資産を継続的に保有する法人の負担となっているとして求めていたものです(第三者保有の暗号資産の期末時価評価課税に係る見直し)。

2026.8.22 追記: 要件の一つである認定協会による譲渡制限の公表は日本暗号資産等取引業協会の公表ページで行われており、公表資料には、2024年5月の公表開始以降、累計1,800件を超える公表記録が掲載されています(2026年7月31日更新版時点・公表停止となった過去の記録を含む)。上場会社が実際に特定譲渡制限付暗号資産に該当するビットコインを保有している例も、開示資料から確認できます。株式会社メタプラネットの半期報告書(2026年8月13日提出)は、保有するビットコインのうち特定譲渡制限付暗号資産に該当する部分の数量・貸借対照表価額(2025年12月末時点で10,000BTC・1,383億円、2026年6月末時点で5,014BTC・477億円)を追加情報として注記しています。

会計上は時価評価を続けながら税務上は原価法を選択するといった場面では、会計と税務で暗号資産の帳簿価額が乖離し、その差は一時差異として税効果会計の対象になります。時価が取得原価を上回っていれば、その差は将来加算一時差異となり、対応する繰延税金負債を計上して、損益計算書には法人税等調整額が現れます。評価方法の選択は、税負担だけでなく財務諸表の見え方にも影響する論点です。

海外基準との違い

IFRSには暗号資産を直接対象とする基準がなく、IFRS解釈指針委員会の2019年6月のアジェンダ決定により、同決定が対象とする類型の暗号資産については、通常の営業過程で販売目的に保有する場合は棚卸資産(IAS第2号)、それ以外は無形資産(IAS第38号)として処理することとされています。IAS第38号の原価モデルを適用する場合、価格上昇は売却まで原則として損益に反映されません。

米国会計基準でも従来は無形資産として減損のみを認識する扱いでしたが、FASBが2023年12月13日に公表した会計基準更新書(ASU)2023-08により、一定の暗号資産は公正価値で測定し変動を純利益に計上することとされました。2024年12月15日より後に開始する事業年度から適用され、早期適用も認められます。

保有する暗号資産の価格変動を当期損益に反映する点では、日本基準と米国の新基準に共通点があります。もっとも、日本基準が活発な市場の存在を時価評価の前提とするのに対し、米国基準は対象となる暗号資産の要件を別に定めており、適用範囲は一致しません。IFRSとの差も残るため、国際的なグループ内で暗号資産を保有する場合には、適用基準による損益影響の違いを踏まえた検討が必要です。

ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス

当事務所では、会計コンサルティングにおいて、暗号資産・トークンの会計処理の検討に対応しています。保有目的とスキームの整理から、活発な市場の該当性判断、処理方針の文書化までを扱います。期末時価評価をめぐる法人税務の検討も、あわせて扱います(税務顧問・申告税務意見書)。

2026.8.22 追記: 2026年7月15日、暗号資産取引に係る規制を資金決済法から金融商品取引法に移管する改正法が成立しました(金融庁による法案説明資料)。同法は2026年7月23日に公布されましたが(令和8年法律第64号)、暗号資産関連の主要規定は原則として公布の日から1年以内の政令で定める日から施行されるため、本追記時点では施行前です。本記事で整理した会計処理は「資金決済法に規定する暗号資産」を対象とする実務対応報告に基づくものであり、移管に伴う会計基準側の対応が今後の論点になります。

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