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非上場会社のオーナー経営者にとって、自社の株式は相続財産の中で大きな割合を占めることが多い一方、上場株式のような市場価格が存在しません。相続税・贈与税の申告では、こうした「取引相場のない株式」を財産評価基本通達の定めに従って評価します。
評価の結果は、株式を取得した株主の立場、会社の規模、資産構成によって大きく変わります。本記事では、株主の区分から会社規模の判定、類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式の仕組み、特定の評価会社の取扱いまで、評価の流れを整理します。
評価の全体像
相続税法第22条は、相続や贈与により取得した財産の価額は取得の時における時価によると定めており、取引相場のない株式の時価の評価方法を定めているのが財産評価基本通達178から189-7までの一連の定めです(概要は国税庁タックスアンサーNo.4638)。評価は、おおむね次の順序で検討します。
| 検討順序 | 内容 |
|---|---|
| 株主の区分 | 原則的評価方式か配当還元方式か |
| 会社規模の区分 | 大会社・中会社・小会社のいずれか |
| 特定の評価会社 | 資産構成・営業状態による特別区分の該当性 |
| 評価額の計算 | 適用される方式による計算 |
実際の計算は、国税庁の様式である取引相場のない株式(出資)の評価明細書に沿って進めるのが通常です。
株主の区分
会社の経営支配力を持つ同族株主等が取得した株式は原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式またはその併用)により、それ以外の株主が取得した株式は特例的な配当還元方式により評価します(通達178・188)。
同族株主とは、株主の1人とその同族関係者(親族や関係法人等)の議決権の合計が30%以上となる場合のその株主グループをいい、議決権50%超のグループがある会社ではそのグループだけが同族株主となります。同族株主がいる会社でも、中心的な同族株主(配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族等で議決権25%以上となる株主)がいる場合、それ以外の同族株主で取得後の議決権が5%未満であり、役員でない者(申告期限までに役員となる者を除く)が取得した株式は、配当還元方式によります(通達188)。
同族株主のいない会社では、取得者とその同族関係者の議決権の合計が15%未満であれば、配当還元方式によります。15%以上の株主グループに属する場合でも、いずれかのグループに単独で議決権10%以上を有する「中心的な株主」がいる会社では、取得後の議決権が5%未満であり、役員でない者(申告期限までに役員となる者を除く)が取得した株式は、配当還元方式によります(通達188)。
判定は、相続や贈与により株式を取得した株主ごとに、課税時期の議決権の数で行います。同じ会社の株式でも、後継者が取得するか、経営に関与しない親族が取得するかによって、適用される評価方式と評価額が大きく変わることになります。
会社規模の区分
原則的評価方式では、まず評価会社を大会社・中会社・小会社に区分します(通達178)。従業員数が70人以上であれば大会社です。70人未満の場合は、業種(卸売業、小売・サービス業、それ以外)ごとに、直前期末の総資産価額(帳簿価額)と従業員数、直前期末以前1年間の取引金額の基準に当てはめて判定します。従業員数は、週30時間未満のパートタイマー等を労働時間で換算して数え、社長など一定の役員は含めません。
会社規模に応じた評価方式は次のとおりです。
| 会社規模 | 原則の方式 | 選択できる方式 |
|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式 | 純資産価額方式 |
| 中会社 | 併用方式(L=0.90・0.75・0.60) | 類似業種比準価額を純資産価額に置換え |
| 小会社 | 純資産価額方式 | 併用方式(L=0.50) |
中会社の併用方式は、類似業種比準価額にL、純資産価額に(1-L)を乗じて合算する計算で、Lの割合(0.90・0.75・0.60)は会社規模に応じて定まります(通達179)。表2のとおり、いずれの規模でも納税義務者の選択が認められているため、実務では原則の方式と選択方式の両方を計算し、低い方の評価額を採用するのが通常です。
類似業種比準方式
類似業種比準方式は、評価会社と事業内容が類似する業種目の上場会社の平均株価を基礎に、評価会社の実績を反映させて評価する方法です(通達180)。具体的には、類似業種の株価に、1株当たりの配当金額・利益金額・純資産価額(簿価)の3要素それぞれについて評価会社の数値を類似業種の数値で除した割合の平均を乗じ、さらに斟酌率(大会社0.7・中会社0.6・小会社0.5)を乗じて計算します。計算は1株当たりの資本金等の額を50円とした場合に引き直して行い、最後に実際の資本金等の額に応じた倍数を乗じます。
類似業種の株価は、課税時期の属する月以前3か月間の各月の株価のうち最も低いものを使いますが、納税義務者の選択により、前年平均株価または課税時期の属する月以前2年間の平均株価によることもできます(通達182)。業種目の区分と業種目別の株価・比準要素は、国税庁が類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等として毎年公表しています。
評価会社側の3要素は、配当が直前期末以前2年間の平均(特別配当・記念配当など継続が見込めないものを除く)、利益が直前期の法人税の課税所得金額を基礎とした金額(固定資産売却益など非経常的な利益を除く。直前2期の平均も選択可)、純資産が直前期末の資本金等の額と利益積立金額の合計です(通達183)。業績の良い会社ほど比準割合が大きくなり、評価額が高くなる構造です。
純資産価額方式
純資産価額方式は、課税時期において会社の各資産を財産評価基本通達により評価した価額(相続税評価額)の合計額から、負債の合計額と「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」を控除し、発行済株式数で除して計算します(通達185)。評価差額(相続税評価額による純資産と帳簿価額による純資産の差額)がプラスとなる場合に、その金額に37%を乗じた金額を控除するのは、会社を清算して資産を処分した場合に法人税等の負担が生じることを考慮したものです(通達186-2。37%は法人税・事業税・住民税等の税率の合計に相当する割合)。
計算上の主な留意点として、課税時期前3年以内に取得または新築した土地・建物は、路線価や固定資産税評価額に基づく相続税評価額ではなく、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価します(通達185)。また、中会社または小会社の評価に用いる純資産価額については、株式を取得した株主とその同族関係者の議決権の合計が50%以下である場合、計算した純資産価額の80%で評価します(通達185ただし書)。大会社が選択する純資産価額方式には、この80%評価は適用されません。
配当還元方式
同族株主以外の株主等が取得した株式は、その株式に係る年配当金額(直前期末以前2年間の平均。1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額)を10%の利率で還元し、実際の資本金等の額に応じた倍数を乗じて評価します(通達188-2)。年配当金額が2円50銭未満の場合や無配の場合は、2円50銭として計算します。経営に関与しない少数株主にとって株式の経済的価値は配当への期待が中心であることを踏まえた、簡便な評価方法です。計算した金額が原則的評価方式による価額を超える場合には、原則的評価方式によります。
特定の評価会社
資産構成や営業状態が特殊な会社の株式は、会社規模の区分にかかわらず、別に定める方法で評価します(通達189)。
| 区分 | 主な内容 | 評価方法 |
|---|---|---|
| 比準要素数1の会社 | 直前期末で2要素、直前々期末でも2以上がゼロ | 純資産価額(L=0.25の併用も可) |
| 株式等保有特定会社 | 株式等が総資産の50%以上 | 純資産価額(S1+S2方式も可) |
| 土地保有特定会社 | 土地等が70%以上(大会社)等 | 純資産価額 |
| 開業後3年未満等 | 開業後3年未満、3要素すべてゼロ | 純資産価額 |
| 開業前・休業中 | 開業前または休業中 | 純資産価額 |
| 清算中の会社 | 清算手続中 | 清算分配見込額の複利現価 |
株式等保有特定会社は、相続税評価額ベースの総資産に占める株式・出資・新株予約権付社債の割合が50%以上の会社、土地保有特定会社は、同じく土地等の割合が大会社で70%以上、中会社で90%以上(総資産価額が一定額以上の小会社を含む)の会社です。持株会社や不動産の比重が高い会社がこれらの特定の評価会社に該当すると、類似業種比準方式によることができず、評価額が高くなりやすい純資産価額方式が基本となります。株式等保有特定会社については、S1+S2方式を選択することもできます。
なお、比準要素数1の会社、株式等保有特定会社、土地保有特定会社および開業後3年未満の会社等の株式であっても、同族株主以外の株主等が取得した株式に該当する場合には、原則として配当還元方式により評価します(通達189-2から189-4まで)。開業前・休業中の会社と清算中の会社には、この定めはありません。
なお、株式等保有特定会社・土地保有特定会社の判定について、通達189は、課税時期前に合理的な理由なく資産構成の変動があり、その変動が判定を免れるためのものと認められるときは、変動がなかったものとして判定する旨を定めています。判定基準を意識して課税時期の直前に資産構成を組み替えるような対応は、この定めに抵触するおそれがあります。
実務上の留意点
評価額は課税時期(相続開始日・贈与日)ごとに計算するため、会社の業績、資産の含み損益、公表される業種目別株価の水準によって毎年変動します。株式の生前贈与や事業承継の検討では、直近の数値で評価額を試算した上で、実行のタイミングを検討することになります。
また、財産評価基本通達による評価は、相続税・贈与税の申告のための画一的な評価であり、M&Aで第三者と合意する取引価格や、個人から法人へ株式を譲渡する場合の所得税・法人税上の時価とは、枠組みが異なります。通達評価額をそのまま他の場面に持ち込むと、課税上の問題が生じることがあるため、場面ごとに適用される評価の枠組みを確認することが必要です。
通達による評価が常に認められるわけではない点にも留意が必要です。財産評価基本通達の総則6項は、通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産については、国税庁長官の指示を受けて評価する旨を定めています。最高裁令和4年4月19日判決(判決全文)は、通達評価額と鑑定評価額との間に大きな乖離があることだけでは通達によらない評価を正当化できないとした一方、通達評価によって相続税の負担が著しく軽減され、納税者がその軽減を意図して取引を実行したことにより、他の納税者との間に看過し難い不均衡が生じる場合には、通達評価額によらない課税を認めました。
本判決は不動産についての判断であり、取引相場のない株式を直接の対象としたものではありません。もっとも、株式についても、通達評価による著しい税負担の軽減を意図した不自然な資産・資本構成の変更などがある場合には、総則6項が適用されるリスクを検討する必要があります。
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