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オーナーと同族会社の間や親族間など、独立した当事者間の価格形成が期待しにくい非上場株式の取引では、当事者が合意した価格と税務上の「時価」が乖離すると、みなし譲渡やみなし贈与などの課税が生じることがあります。この記事では、このうち個人から法人への贈与や著しく低い価額での譲渡に適用される所得税法第59条第1項を取り上げ、その時価についての課税実務上の取扱いを示す所得税基本通達59-6と、解釈が最高裁まで争われた事例を整理します。
参考記事: 非上場株式の評価方法と適用場面(2025年7月8日)/取引相場のない株式の相続税評価(2024年12月10日)
所得税基本通達59-6の枠組み
所得税法第59条第1項が適用される場面では、実際の対価にかかわらず、時価で譲渡があったものとみなして譲渡所得を計算します。対象になるのは、個人から法人への贈与と、法人への時価の2分の1未満の価額での譲渡です。
この時価について、59-6は、すべての非上場株式を直ちに財産評価基本通達で評価するものとはしていません。まず所得税基本通達23〜35共-9に準じて、適正な売買実例のある株式はその価額、公開途上にある株式は公募価格等を参酌した価額、事業内容等が類似する法人の株式の価額があるものはそれに比準した価額によります。これらに該当せず、1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額を算定する場合について、59-6は、次の条件を付した上で、財産評価基本通達の例(同族株主等は原則的評価方式〔類似業種比準方式・純資産価額方式またはその併用〕、少数株主は配当還元方式)によることを認めています。財産評価基本通達の評価体系は非上場株式の評価方法と適用場面で、各評価方式の仕組みは取引相場のない株式の相続税評価で整理しています。
59-6 法第59条第1項の規定の適用に当たって、(中略)「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」については、原則として、次によることを条件に、(中略)「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで《取引相場のない株式の評価》の例により算定した価額とする。
(1) (中略)読み替えた後の同通達188の(1)から(4)までに定める株式に該当するかどうかは、株式の譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。
(2) 当該株式の価額につき財産評価基本通達179の例により算定する場合(中略)において、当該株式を譲渡又は贈与した個人が当該譲渡又は贈与直前に当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。
(3) 当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については、当該譲渡又は贈与の時における価額によること。
(4) 財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。
具体的には、①少数株主かどうかの判定を譲渡人の譲渡直前の議決権の数で行う、②譲渡人が中心的な同族株主に該当する場合は、会社の規模にかかわらず評価方式の選択上は小会社として扱う、③保有する土地や上場有価証券は譲渡時の価額で評価し直す、④純資産価額の計算で評価差額に対する法人税額等相当額を控除しない、という修正が加えられます。これらの修正を加えた算定は、相続・贈与の申告で使う通達評価とは異なり、評価額も一致するとは限りません。③と④は通常、評価額を引き上げる方向に働きますが、①や②によって採用される評価方式自体も変わるため、常に通達評価額より高くなるとは限りません。
なお、法人税の側でも、法人が無償または低い価額で株式を譲渡した場合の対価の額について、法人税基本通達2-3-4が同4-1-4から4-1-6までを準用しています。売買実例等のない非上場株式については、課税上弊害がない限り、小会社としての評価、土地・上場有価証券の時価評価、評価差額に対する法人税額等相当額を控除しないことなど、59-6の(2)から(4)までと概ね同様の条件の下で財産評価基本通達を援用することが認められています(資産の評価損の場面に関する同9-1-14にも同様の定めがあります)。もっとも、法人が当事者となる取引の時価は、取引の態様や適用条文に応じて個別に検討することになります。
評価方式の選択が争われた例(タキゲン事件)
59-6が財産評価基本通達の例によることを認める以上、株主の区分によって評価方式が分かれる仕組み、すなわち経営支配力の乏しい少数株主であれば配当還元方式で評価できるというルールも、譲渡の時価算定に持ち込まれます。ここで問題が生じます。相続・贈与と違い、売買には譲渡人と譲受人という2人の株主が登場するのに、相続・贈与を想定して作られた財産評価基本通達は株式を「取得した」株主を基準に書かれているため、少数株主に当たるかどうかを譲渡人と譲受人のどちらで判定するのかが、文言上は明確ではありませんでした。判定の対象が変われば、同じ譲渡の時価が原則的評価方式と配当還元方式のどちらで算定されるかが変わります。
この解釈が最高裁まで争われたのが、いわゆるタキゲン事件です(最高裁令和2年3月24日判決・集民263号63頁、判決全文)。発行会社の代表取締役が、保有株式の一部を、配当還元方式により算定した1株75円で法人に譲渡し、その価額を収入金額として申告した事案です。発行会社には議決権30%以上を持つ同族株主がおらず、株主グループの議決権が15%以上かどうかで原則的評価方式と配当還元方式が分かれる場面で、どちらの立場を基準にするかによって、次のとおり結論が分かれる構図でした。
| 判定の基準 | 議決権割合 | 区分 | 評価方式 |
|---|---|---|---|
| 譲受人側 | 7.88%(取得後) | 15%未満の少数株主 | 配当還元方式 |
| 譲渡人側 | 22.79%(同族関係者計) | 15%以上のグループ | 原則的評価方式 |
東京高裁は、通達の文言どおり株式を「取得した」譲受人を基準とする評価を認めましたが、最高裁は、譲渡所得への課税は譲渡人の下に生じている増加益に対する課税であるとして、譲渡人の譲渡直前の議決権の数を基準に判定すべきだと判断し、原判決を破棄して原審に差し戻しました。先に引用した59-6の(1)が譲渡直前の議決権の数による判定を明記しているのは、この判決を受けた令和2年8月28日付の改正によるもので、国税庁は、従来の取扱いを変更するものではなく明確化であると説明しています(国税庁による改正の趣旨説明)。同じ株式の同じ譲渡でも、誰の立場を基準に評価方式を選ぶかで税務上の時価が大きく変わることを示した事例です。
時価と乖離した取引の注意点
時価と乖離した価額で取引した場合の課税関係(みなし譲渡・みなし贈与・受贈益等)の全体像は、非上場株式の評価方法と適用場面で整理しています。時価の2分の1以上の対価であれば所得税法第59条第1項のみなし譲渡は適用されませんが、その場合でも、同族会社の行為計算否認の規定に該当するときは、なお時価で譲渡所得を計算されることがあります(所得税基本通達59-3)。また、同族会社に対して時価より著しく低い価額で株式その他の財産を譲渡したことにより、その会社の株式の価額が増加した場合には、他の個人株主が、増加部分に相当する金額を譲渡者から贈与により取得したものとして取り扱われることがあります(相続税法第9条、相続税法基本通達9-2)。
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