ロジットパートナーズ法律会計事務所

2025年6月24日 更新: 2026年1月13日

下請法改正と取引適正化

下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律(令和7年法律第41号)が2025年5月16日に成立し、同月23日に公布されました。施行は2026年1月1日で、同日以後に行う製造委託等について適用されます。施行日をまたいで継続する取引であっても、同日前の発注分に新法が及ぶわけではありません。

改正の背景にあるのは、労務費・原材料費・エネルギーコストの急激な上昇です。中小企業が賃上げの原資を確保するには、サプライチェーン全体で価格転嫁を定着させる必要があるという問題意識から、協議に応じない一方的な価格決定などの商慣習に手を入れるものとされています。

本記事では、発注者側の実務に影響する変更を整理します。内容は公正取引委員会の中小受託取引適正化法の概要(令和7年6月)によります。

法律名と用語が変わる

題名が「下請代金支払遅延等防止法」から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改められます。略称は中小受託取引適正化法、通称は取適法です。下請中小企業振興法も受託中小企業振興法になります。

用語も次のように変わります。

  • 親事業者 → 委託事業者
  • 下請事業者 → 中小受託事業者
  • 下請代金 → 製造委託等代金

「下請」という語が対等な関係ではないという語感を与えるという指摘を踏まえたものです。中小企業庁・公正取引委員会の調査では、外注先を「下請」企業等と呼称したことはないと答えた発注者が76.8%を占めており、日常的な呼称としては使われなくなっている状況がうかがえます。

契約書や社内規程に「下請」という語が残っていること自体が違法になるわけではありません。優先すべきは、後述する適用判定・発注時の明示・支払条件・協議手順の見直しであり、用語の置き換えは改訂の機会に合わせれば足ります。ただし法令名を引用している条項は、正確性の観点から確認が必要です。

適用対象が広がる

取引先が適用対象に当たるかどうかの判定について、二つの追加があります。

従業員数基準の新設

従来の資本金基準に加えて、従業員数の基準が新設されます(取適法2条8項・9項)。従業員基準は、資本金基準が適用されない場合に用いられる補充的な基準です。資本金で判定が付く取引は、従来どおり資本金基準によります。

区分は取引類型によって分かれます。

  • 物品の製造・修理委託、特定運送委託、プログラムの作成委託、運送・倉庫保管・情報処理に係る役務提供委託は、従業員300人
  • それ以外の情報成果物作成委託・役務提供委託は、従業員100人

役務提供委託であれば一律100人というわけではなく、運送・倉庫保管・情報処理は300人の区分に入ります。

改正理由として挙げられているのは、実質的な事業規模は大きいのに設立時の資本金が少額であるために対象外となっている事業者や、減資によって適用を免れる例、さらには適用を逃れるために受注者へ増資を求める発注者が存在することです。

つまり、資本金基準では対象外だった取引が、従業員数基準で新たに対象になる場合があります。資本金だけで判定して取引先を絞り込んでいると、施行日を境に無自覚な違反が生じかねません。従業員数の確認自体が義務づけられるわけではありませんが、区分の近辺にある取引先については、確認する運用を用意しておくことになります。

特定運送委託の追加

発荷主が運送を委託する取引が、特定運送委託として対象に追加されます(取適法2条5項)。従来は運送の「再委託」だけが対象で、発荷主から元請運送事業者への委託は下請法の対象外でした。

ただし、発荷主からのあらゆる運送委託が対象になるわけではありません。対象となるのは、販売する物品や製造・修理を請け負った物品などを、その取引の相手方(相手方が指定する者を含む)に対して運送する業務の委託です。自社の拠点間の運送は、通常は該当しません。

あわせて、製造委託の対象に、金型・木型その他の物品の成形用の型や、工作物保持具(いわゆる治具)その他の特殊な工具が追加されます。

協議に応じない一方的な代金決定の禁止

新設される禁止行為のうち、実務への影響が大きいのがこの規定です(取適法5条2項4号)。

四 中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等代金の額を決定すること。
出典: 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律 第5条第2項

同項柱書により、これらの行為によって中小受託事業者の利益を不当に害することが要件になります。協議に応じなかったという一事で直ちに違反が成立するものではありません。

「費用の変動その他の事情」には、労務費・原材料価格・エネルギーコストの高騰のほか、納期の短縮、納入頻度の増加、発注数量の減少といった取引条件の変更、需給状況の変化、委託事業者から従前の代金の引下げを求めた場合が含まれるとされています。また、ここでいう代金額の「決定」には、引上げ・引下げだけでなく据置きも含まれます

買いたたきとの関係

買いたたきの禁止(取適法5条1項5号)は、同種または類似の給付に対し通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定める行為を対象とします。「通常支払われる対価」とは市価のことです。もっとも、公正取引委員会が法運用の考え方を示した運用基準では、市価の把握が困難な場合について、従前の単価に比べて著しく低い額や、労務費・原材料価格等の著しい上昇が公表資料から把握できるにもかかわらず据え置かれた額も、これに当たるものとして扱うとされています。

したがって、コスト上昇局面での価格据置きは、従来から買いたたきに該当し得ます。新設規定は、価格水準に着目する買いたたきとは別に、価格決定のプロセスに独立して着目するものと理解するのが正確です。

もっとも、この規定によって、委託事業者があらゆる内部資料や原価情報を開示する義務を負うわけではありません。条文が求めているのは、中小受託事業者が求めた事項について必要な説明または情報を提供することです。

この規定を読むにあたっては、内閣官房・公正取引委員会が2023年11月に公表した労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針が参考になります。発注者・受注者それぞれが採るべき行動を12の行動指針として整理したもので、発注者側については、労務費上昇分の価格転嫁を受注者から言い出しやすい取引環境の整備や、定期的な協議の場の設定などが挙げられています。

手形払い等の禁止

対象取引において、手形による支払いが禁止されます(取適法5条1項2号)。あわせて、支払期日までに代金相当額を得ることが困難な支払手段も禁止されます。電子記録債権やファクタリングであっても、手数料等を含む満額を支払期日までに得られないものは認められません。手形払いの禁止に伴い、割引困難な手形に係る従来の規制は廃止されます。

影響を理解するには、支払期日の規制と併せて見る必要があります。支払期日は物品等の受領日から60日以内とされていますが、その支払日に手形を交付すれば、実際に現金化されるのは手形サイトの満了後です。公正取引委員会の資料では、支払日までの60日に手形サイト60日が加わり、現金受領までに120日を要する例が示されています。

注意すべきは、従来の手形満期日に合わせて現金払いの支払日を後ろ倒しにすると、支払遅延に当たることです。支払期日の規制自体は変わらないため、手形をやめる際に支払日を動かすことはできません。手形サイトを設けている取引では、資金繰りへの影響を織り込んだうえで支払条件を組み替える必要があります。

価格交渉プロセスをどう組み直すか

以上を踏まえると、対応は契約書の文言を直すだけでは足りません。価格協議に応じ、求められた事項を説明できる状態を、組織として作れるかどうかが問われます。

第一に、価格に影響する指標を確認できる体制です。最低賃金、原材料価格、物流費、エネルギー価格といった公表指標を把握しておけば、受注者からの要請に対して協議の土台を持てます。自社の調達実績や取引条件を項目別に見られる管理基盤があれば、価格改定の要否を組織として検討しやすくなります。

ここで注意したいのは、発注者が受注者に対し、協議の前提として容易には作成できないほど詳細な原価資料を求め、協議を困難にする行為は、それ自体が問題となり得る点です。求めるべきは交渉を成立させるための情報であって、資料提出のハードルを上げることではありません。

第二に、協議経過の記録です。この規定は結果ではなく過程を問うため、いつ協議の求めがあり、何を説明し、何を根拠に決定したかが残っていなければ、適切に協議したことを示せません。法令上の作成・保存義務は発注書面や取引記録について定められたものですが、それとは別に、紛争予防と説明可能性の観点から議事録等を残しておくことが望まれます。

第三に、取引条件の一元管理です。従業員数基準の追加によって適用判定はこれまでより複雑になり、支払期日と支払方法の管理も手形払いの禁止によって重みを増します。取引先ごとの契約条件・支払条件・交渉履歴が散在していると、施行後の点検そのものが困難になります。

中小企業庁は価格交渉・転嫁の支援ツールとして、「中小企業・小規模事業者の価格交渉ハンドブック」をはじめとする資料を公開しています。協議の相手方がどのような資料や算定方法を用いて交渉に臨むかを知る資料として、発注者側にも参考になります。

執行体制も強化される

事業所管省庁の主務大臣にも、委託事業者に対する指導・助言の権限が付与されます(取適法8条)。従来、事業所管省庁には調査権限しかなく、公正取引委員会・中小企業庁との連携に限界がありました。報告徴収・立入検査は12条に、関係行政機関相互の情報提供・協力は13条に規定されています。

あわせて、報復措置の禁止(取適法5条1項7号)の申告先に、現行の公正取引委員会・中小企業庁長官に加えて事業所管省庁の主務大臣が追加されます。トラック・物流Gメンなど事業所管省庁の窓口に通報した場合も、報復措置の禁止の保護が及ぶことになります。

公正取引委員会は、勧告事案について関連業界団体への申入れを行い、業界単位で自主点検や研修を促す運用を続けています。個別の違反が自社だけの問題にとどまらない点も念頭に置く必要があります。

施行までに確認すること

  • 資本金基準で判定が付かない取引先について、従業員数基準で委託事業者に当たらないか
  • 発荷主として、取引の相手方またはその指定先への運送を委託している取引がないか
  • 手形・電子記録債権・ファクタリングによる支払いの有無。ある場合、支払期日を動かさずに現金払いへ移行する前提での資金計画
  • 価格協議の求めを受け付ける窓口と、協議・決定の経過を記録する運用
  • 価格に影響する公表指標を確認できる体制
  • 契約書・社内規程のうち、法令名を引用している条項

なお、発注内容等の明示(取適法4条)については、相手方の承諾を得なくても電磁的方法によることが認められるようになります。ただし電磁的方法で明示した後に中小受託事業者から書面の交付を求められたときは、規則で定める例外を除き、遅滞なく書面を交付しなければなりません。電子化しても、書面交付の求めに応じる経路は残しておく必要があります。

※本記事は改正の概要を整理したものです。個別の取引が対象となるかどうかは、取引の内容と当事者の規模によって異なります。

ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス

当事務所では、契約書作成・レビューにおいて、取引基本契約や発注書面の見直し、支払条件の設計に対応しています。改正法の適用範囲の確認や、価格協議の手順を社内でどう定めるかといった検討は、法務コンサルティングとして承ります。

コスト構造の把握や取引条件の一元管理といった、法務と経理・管理部門にまたがる論点については、管理部門DX支援として、会計・税務の側から併せて検討します。

2026.1.13 追記: 改正法は2026年1月1日に施行され、同日以後に行う製造委託等に適用されています。公正取引委員会・中小企業庁は中小受託取引適正化法テキスト(令和7年11月)を公表しており、運用基準とQ&Aを含む解釈が示されています。また「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」は2025年12月26日に改正され、2026年1月1日から改正版が適用されています。

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