目次
金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」の報告が2025年12月10日に公表されました。暗号資産の規制を資金決済法から金融商品取引法に移し、情報提供規制とインサイダー取引規制を整備するという、資金決済法を中心としてきた暗号資産規制の枠組みを大きく転換する提言です。
参考記事: 暗号資産の会計処理と法人税務(2024年5月21日)

見直しの背景
日本の暗号資産規制は、マネー・ローンダリング対策と決済手段としての利用者保護を出発点として、資金決済法の中で整備されてきました。しかし、国内の交換業者における口座開設数は延べ1,300万口座を超え、利用者預託金残高は5兆円以上(いずれも2025年10月時点)に達し、利用者の取引動機の86.6%は長期的な値上がりへの期待です。米国等でのビットコインETFの上場もあり、暗号資産は決済手段ではなく投資対象として保有されています。報告は、この実態の変化を見直しの出発点に置いています。
一方で、金融庁には詐欺的な投資勧誘を中心に月平均350件以上の苦情相談が寄せられており、投資対象化の進展が利用者保護の必要性を高めていると報告は整理しています。金融庁が2025年4月に公表したディスカッション・ペーパーと意見募集を経て、同年6月の金融担当大臣の諮問により審議が始まり、7月以降6回の審議を経てまとめられたものです。
資金決済法から金商法へ
報告は、暗号資産取引の多くが価格変動によるリターンを期待した取引であり、投資性の強い金融商品を幅広く対象とする金商法の考え方と整合的であるとして、暗号資産に係る規制を資金決済法から削除し、金商法に位置づけることを提言しています。
暗号資産は配当や残余財産分配のような法的な権利を表章しないため、有価証券としてではなく、有価証券とは別の規制対象として金商法に置くこととされています。対象は現行の資金決済法上の暗号資産で、NFTは一律の金融規制の対象とすることに慎重な検討を要するとされ、資金決済法上の電子決済手段に該当する、法定通貨連動型のいわゆるステーブルコインは、引き続き資金決済法の規制対象です。また、金商法に移しても決済目的での利用は制限されないことが明記されています。
情報提供規制
情報提供義務は、銘柄の審査を行う立場にある交換業者が、暗号資産の性質・機能や供給量、基盤技術、リスク等を利用者に分かりやすく提供することを基本とします。その上で、価値の源泉を実質的にコントロールする者(中央集権的管理者)が存在する暗号資産について、その管理者が資金調達のために販売を行う場合には、発行者側に情報提供義務を課すこととされています。
中央集権型に当たるものの例示としては、特定の者のみが発行権限を有するもの、パーミッション型ブロックチェーンによるもの、ERC-20等のトークン規格に基づき発行されるもの、という3類型が示され、いずれかに該当すれば基本的に中央集権型に当たると整理されています。あわせて、将来の形態の変化を踏まえ、実態に応じた柔軟な制度とする必要にも言及があります。少人数(49名以下)や適格機関投資家のみを相手方とする販売については、有価証券の私募に相当するものとして情報提供規制を免除する方向です。
インサイダー取引規制の導入
現行法では暗号資産のインサイダー取引を直接規制する規定がなく、課徴金制度もありません。報告は、欧州(MiCA)や韓国での法制化、米国での執行事例を踏まえ、上場有価証券のインサイダー取引規制の枠組みを基礎に、暗号資産向けの規制を整備すべきだとしています。
対象は国内の交換業者で取り扱われる暗号資産(取扱申請中のものを含む)で、取引の場所は問わず、DEXでの取引や当事者間の直接取引にも及びます。重要事実は、中央集権型暗号資産の発行者の業務等に関する事実(破産、重大なセキュリティリスクの発覚等)、交換業者の取扱いに関する事実(新規『上場』・『上場』廃止、流出等)、大口取引(発行済数量の20%以上の売買等)の3類型を個別列挙し、バスケット条項で補完する構成です。あわせて課徴金制度や証券取引等監視委員会による犯則調査権限の整備も提言されており、エンフォースメントの水準は大きく変わることになります。
税制とのつながり
金商法上の位置づけの見直しは、課税方式の議論と連動しています。令和8年度税制改正の大綱(2025年12月26日閣議決定)には、暗号資産取引業を行う者に対する「特定暗号資産」の譲渡等による所得を他の所得と分離して20%(所得税15%・個人住民税5%)の税率で課税し、損失の繰越控除を認める措置が盛り込まれました。特定暗号資産の定義が「金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等」とされているとおり、この税制は金商法への移管の実現を前提とした設計です。規制と税制は一体で進むため、保有・発行のいずれの立場でも、法制化の進行を踏まえた検討が必要になります。
ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス
当事務所では、法務コンサルティングにおいて、暗号資産・トークンに関する規制の当てはめや、制度改正を踏まえた対応の検討に対応しています。保有する暗号資産の会計処理や税務上の取扱いも、あわせて扱います(会計コンサルティング、税務顧問・申告)。
関連サービス
関連記事
2026年8月25日
ステーブルコインの会計処理に関する公開草案の公表
企業会計基準委員会(ASBJ)は2026年8月17日、資金決済法上の電子決済手段(ステーブルコイン)の会計処理を定める実務対応報告第45号の改正案を含む3件の公開草案を公表しました。2026年6月施行の内閣府令改正で第4号電子決済手段として規定された外国信託型のステーブルコインを会計基準の適用範囲に取り込むことが主眼で、コメント期限は2026年10月19日です。
2025年8月26日
中小M&A市場改革プランの公表
中小企業庁は2025年8月5日、「中小M&A市場改革プラン」を公表しました。中小M&Aの件数が増加する一方で、支援機関の質や不適切な譲り受け側の存在が指摘されている状況を踏まえ、市場の健全化に向けた施策の方向性を示すものです。
2025年3月6日
投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)概要と令和6年改正
投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)は、主にベンチャーキャピタル(VC)やプライベート・エクイティ(PE)ファンドが活用する投資スキームである投資事業有限責任組合(LPS)の枠組みを定めた法律です。令和6年に改正が行われ、既に実