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企業会計基準委員会(ASBJ)は2026年8月17日、資金決済法上の電子決済手段(ステーブルコイン)の会計処理を定める実務対応報告第45号の改正案を含む3件の公開草案を公表しました。2026年6月施行の内閣府令改正で第4号電子決済手段として規定された外国信託型のステーブルコインを会計基準の適用範囲に取り込むことが主眼で、コメント期限は2026年10月19日です。
参考記事: 令和7年改正資金決済法の施行(2026年6月4日)/暗号資産の会計処理と法人税務(2024年5月21日)
公開草案の全体像
公表されたのは次の3件です。いずれも確定した基準ではなく、寄せられたコメントを踏まえて今後最終化されます。
| 種別 | 公開草案 | 改正の対象 |
|---|---|---|
| 実務対応報告 | 第74号 | 第45号(電子決済手段の会計処理・開示) |
| 企業会計基準 | 第99号 | 第32号(CF計算書作成基準の一部改正) |
| 移管指針 | 第21号 | 第6号(CF計算書の作成実務指針) |
中心となるのは実務対応報告公開草案第74号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)」で、現行の実務対応報告第45号(2023年11月17日公表)の適用範囲に、外国信託型の第4号電子決済手段を追加する改正案です。第99号・第21号は、これに連動してキャッシュ・フロー計算書上の資金の範囲を改正するものです。
背景:法改正で広がった電子決済手段の範囲
資金決済法第2条第5項は、電子的に移転できる通貨建資産や金銭信託の受益権(特定信託受益権)など、法定通貨との価値の連動を図るいわゆるステーブルコインを「電子決済手段」として4つの区分で定義しています。
| 区分 | 概要 |
|---|---|
| 第1号 | 電子的に移転できる通貨建資産(不特定の者への支払等に使用できるもの) |
| 第2号 | 不特定の者との間で第1号と相互に交換できる財産的価値 |
| 第3号 | 特定信託受益権(金銭信託の受益権) |
| 第4号 | 前3号に準ずるものとして内閣府令で定めるもの |
このうち第4号は、2022年の制度創設時から内閣府令への委任という形で置かれていた受け皿ですが、現行の実務対応報告第45号が公表された時点では、具体的に指定されるものは見込まれておらず、会計基準の適用範囲にも含まれていませんでした。
この第4号の類型として外国信託型のステーブルコインを新たに追加したのが、電子決済手段等取引業者に関する内閣府令等の改正(令和8年内閣府令第47号・2026年5月19日公布・6月1日施行)です。令和7年改正資金決済法と同じ日に施行されていますが、同法の改正事項ではなく、同法の施行に伴う政令・内閣府令の整備とも別に、独自のパブリックコメント(2026年2月3日〜3月5日)を経て整備されたものです。この改正により、日本の電子決済手段に関する法制度との同等性が認められた外国の法令に基づく信託の受益権、すなわち外国の信託銀行等が発行する信託受益権方式のステーブルコインが、第4号電子決済手段として規定されました(取引業府令第2条第3項第1号)。同等性の要件には、外国当局による監督の同等性、裏付け資産の確保の同等性、信託財産と財産的価値が同一の通貨建てであることなどが含まれます。あわせて、この外国信託受益権を金融商品取引法上の有価証券とみなさないこととする改正も行われており、有価証券として既存の会計基準(電子記録移転有価証券表示権利等に関する実務対応報告第43号)に取り込む道がないため、実務対応報告第45号の側で受け止める必要が生じていました。
外国発行のステーブルコインがすべて今回の第4号に当たるわけではありません。米ドル建てで流通量の大きいUSDCは、従来の枠組み(第1号に相当する外国電子決済手段)で扱われており、2025年3月に国内初の電子決済手段等取引業者の登録を受けた事業者による取扱いがすでに始まっています(SBI VCトレードのニュースリリース)。第4号として新たに受け皿ができたのは、外国の信託銀行等が信託受益権の方式で発行するステーブルコインです。同等性の要件のうち裏付け資産確保の同等性について、金融庁はパブリックコメントへの回答で、外国の法令における裏付け資産の種類・組入比率や信託財産減少時の措置等を踏まえ、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されるとの考え方を示しています。
実例もすでにあります。SBI VCトレードは2026年6月24日、リップル社傘下でニューヨーク州認可の信託会社であるStandard Custody & Trust Companyが発行する米ドル建てステーブルコイン「RLUSD」について、国内初の第4号電子決済手段として取扱いを開始したと公表しました(SBI VCトレードのプレスリリース)。内閣府令改正の施行から約3週間後の取扱い開始です。同社はリリースの注記で、RLUSDは米国法上は信託受益権ではないものの、日本での取扱いに際して日本法の観点から第4号電子決済手段であるとの整理を行った旨を説明しており、外国の法制度に基づく発行スキームを日本法の区分に当てはめる際の判断の一例になっています。
他方、令和7年改正資金決済法の改正事項のうち今回の公開草案に関係するのは、信託型(第3号)の裏付け資産について、信託財産の50%を上限に一定の国債等・定期預貯金による管理・運用を認める柔軟化です。今回の公開草案は、この2つの制度改正(内閣府令による外国信託型の指定と、法改正による第3号の運用柔軟化)の双方を受けた対応になっています。法改正側の全体像は令和7年改正資金決済法の施行で整理しています。
公開草案の内容
現行の実務対応報告第45号の枠組み
現行の第45号は、第1号から第3号の電子決済手段(外国発行のものは、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る)を対象に、次の取扱いを定めています。
- 取得時は、受渡日に券面額に基づく価額で資産計上し、取得価額との差額は損益処理
- 期末時も券面額に基づく価額で評価(時価評価しない)
- 発行者側は、払戻義務を債務額で負債計上(第3号の発行者側は実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」による)
- 外貨建ての電子決済手段は、外貨建取引等会計処理基準に準じて期末換算
- 電子決済手段等取引業者等が利用者から預かる電子決済手段は、資産・負債に計上しない
- キャッシュ・フロー計算書上は「現金」の範囲に含める(企業会計基準第32号による改正)
この取扱いは、対象となる電子決済手段が、券面額と同額の金銭による払戻しを速やかに受けられ、換金リスクが要求払預金の信用リスクと同程度に低いという評価を前提に、現金に類似する性格と要求払預金に類似する性格を持つ資産として整理したものです。
改正案:外国信託型第4号を同様の取扱いに
公開草案は、外国信託型第4号電子決済手段のうち利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものを第45号の適用範囲に追加し、第1号から第3号と同一の資産項目として、上記と同様の会計処理・開示を適用することを提案しています。外国信託型第4号は、同等性の要件により払戻しを受けられる可能性が第1号から第3号と同水準にあると認められることが理由とされています。
適用範囲が預託分に限定されるのは、取引業府令上、取引業者が預かる外国の電子決済手段には、発行者が払戻困難になった場合等の取引業者による買取義務と、そのための資産保全が求められており、国内発行のものと同程度の利用者保護が働くためです。取引業者に預託していない外国の電子決済手段は、引き続き適用範囲外です。
キャッシュ・フロー計算書についても、企業会計基準公開草案第99号と移管指針公開草案第21号により、外国信託型第4号電子決済手段(預託分に限る)を「現金」の範囲に含めることが提案されています。
また、第3号の裏付け資産運用の柔軟化を受けて、ASBJは第3号電子決済手段の会計上の性格を改めて検討しています。柔軟化後も、信託財産の50%以上は要求払預貯金で、残余も3か月以内に元本が償還される国債等または中途解約が認められる定期預貯金で分別管理され、国債等に不足額が生じた場合は2営業日以内の解消が求められることから、換金リスクの評価は変わらず、券面額評価の枠組みは維持されています。
適用時期(案)
改正後の実務対応報告は、最終化・公表された日以後に適用し、特段の経過的な取扱いは設けないことが提案されています。公表日から直ちに適用される想定のため、外貨建てステーブルコインの取扱いを検討している企業は、最終化を待ってから準備を始めるのではなく、公開草案の段階から内容を把握しておくことが考えられます。
実務への影響
外国信託型第4号電子決済手段を国内の電子決済手段等取引業者を通じて保有・利用しようとする事業会社が、今回の改正案による直接の影響を受けます。これまで外国信託型のステーブルコインは国内法上の電子決済手段に位置づけられておらず、会計処理の拠り所も明確ではありませんでした。規制面の受け皿(内閣府令改正)と会計面の受け皿(本公開草案)が揃うことで、決済・送金への活用を検討する際の前提が整理されることになります。保有すれば金融資産として金融商品会計基準の注記対象になり、外貨建てであれば期末の円換算で換算差損益が生じる点は、経理体制の設計時に織り込む必要があります。
電子決済手段等取引業者にとっては、利用者からの預託分を資産・負債に計上しない現行の枠組みが外国信託型第4号にも及ぶことになります。キャッシュ・フロー計算書上「現金」に含まれる扱いは、資金管理や開示の実務に直結します。
公開草案はあくまで「当面の取扱い」の改正案であり、コメントを踏まえて内容が変わる可能性があります。自社の取引に影響のある論点(適用範囲の限定、外貨建ての換算等)があれば、2026年10月19日までのコメント提出も選択肢になります。
ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス
当事務所では、会計コンサルティングにおいて、電子決済手段・暗号資産に関する会計処理の検討に対応しています。当事務所には弁護士・公認会計士の双方の資格を持つメンバーが在籍しており、資金決済法上の位置づけの確認から会計処理・開示の検討までを分断なく扱えることが特徴です。ステーブルコインを扱う事業の規制対応も、あわせて扱います(法務コンサルティング)。
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