ロジットパートナーズ法律会計事務所

2026年1月20日

労務費転嫁指針の改正と価格協議

目次

労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針の改正が2025年12月26日に公表され、2026年1月1日から適用されています。同日に施行された中小受託取引適正化法(取適法)を踏まえた見直しです。

指針は2023年11月に内閣官房と公正取引委員会が策定したもので、発注者・受注者それぞれが採るべき行動を12にまとめています。本記事では、今回の改正で何が変わったのかを整理します。内容は労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針の改正について(令和7年12月)によります。

労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針の改正について(表紙)

改正の理由

きっかけは取適法の施行です。取適法では、費用の変動その他の事情が生じた場合に、中小受託事業者から代金額の協議を求められたにもかかわらず、協議に応じず、または協議で求められた事項について必要な説明・情報提供をしないまま、一方的に代金額を決定して中小受託事業者の利益を不当に害する行為が、新たに禁止されました。指針はこれに対応する必要がありました。

もう一つの背景が、公正取引委員会が実施した特別調査の結果です。指針の認知度は約60%まで進みましたが、発注者として、受注者からの求めに応じて全ての商品・サービスについて価格協議をした割合は60.9%、一部について協議した場合を含めても69.7%にとどまっています。協議しなかった、または求めがなかったとする回答が30.3%あります。

調査では、指針を知っている事業者のほうが、労務費の上昇を理由とする取引価格の引上げが実現しやすい傾向も示されています。

据置きが問題となる3つの筋道

今回の改正で明記されたのが、協議の要請に応じずに価格を据え置いた場合の位置づけです。改正後の指針は、行動②において次のように整理しています。

  • 協議することなく長年価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用、または取適法上の買いたたきとして問題となるおそれがある
  • スポット取引とはいえないのにスポット取引を理由に協議せず据え置くことも、同様である
  • 受注者から協議の要請があったにもかかわらず、これに応じず一方的に据え置くことは、取適法上の協議に応じない一方的な代金決定として問題となるおそれがある

この3つは排他的ではありません。協議の要請がなくても、協議せず長年据え置けば優越的地位の濫用や買いたたきになり得ます。要請を受けて応じなかった場合は、そこに新設規定が重なります

指針は法令ではなく、沿わないことが直ちに違法になるわけではありません。もっとも、12の行動指針に沿わない行為により公正な競争を阻害するおそれがある場合には独占禁止法および取適法に基づき厳正に対処すること、逆に発注者としての行動を全て適切に行っている場合には通常は両法上の問題が生じないことが、いずれも明記されています。

発注者に求められる6つの行動

発注者側の行動指針は次のとおりです。

  1. 本社(経営トップ)の関与
  2. 発注者側からの定期的な協議の実施
  3. 説明・資料を求める場合は公表資料とすること
  4. サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと
  5. 要請があれば協議のテーブルにつくこと
  6. 必要に応じ考え方を提案すること

実務で見落とされやすいのが2番目です。受注者から求められていなくても、1年に1回や半年に1回など、発注者から定期的に協議の場を設けることが求められています。指針に沿った対応としては、求めがあれば応じるという受け身の運用だけでは足りません。

3番目も具体的です。労務費上昇の理由の説明や根拠資料の提出を受注者に求める場合は、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額といった公表資料に基づくものとし、受注者が公表資料を用いて提示した希望価格は、合理的な根拠のあるものとして尊重することとされています。過度に詳細な原価資料の提出を求めて協議を難しくする運用は、この行動指針と逆方向です。

交渉記録の作成と保管

双方が採るべき行動として挙げられているのが、交渉記録の作成と、双方での保管です。

取適法の協議に応じない一方的な代金決定は、代金額の多寡だけでなく、その決定過程を問う規定です。いつ協議の求めがあり、何を説明し、何を根拠に決定したかが残っていなければ、後から適切に協議したことを示すのが難しくなります。指針が記録の作成と保管を行動指針として挙げているのは、この点と重なります。

なお今回の改正では、価格転嫁の取組が進みにくい業種について、先進的な取組の事例が追加されています。対象として挙げられているのは、注意喚起文書の送付件数が多い業種(情報サービス業、総合工事業)、受注者が価格転嫁を要請した割合が低い業種(放送業)、要請しても取引価格が引き上げられた割合が低い業種(道路貨物運送業)、取引段階が深くなるほど転嫁が進まない各種製造業(はん用機械器具製造業)です。自社の業種が挙がっている場合は、事例を確認しておく価値があります。

※本記事は指針の改正内容を整理したものです。個別の取引が取適法の対象となるかどうかは、取引の内容と当事者の規模によって異なります。

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改正への対応は、契約条項の手直しだけでは終わりません。誰が協議に応じるか、何を根拠に価格を決めるか、その経過をどこに残すかまで決めておく必要があります。

当事務所では、取引基本契約や発注書面の見直しから、価格協議の手順と記録の設計まで対応しています(契約書作成・レビュー法務コンサルティング)。

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