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公正取引委員会は2026年9月9日、株式会社トリドールホールディングスに対し、製造委託の代金から「システム利用料」の名目で一律に1.1%を差し引いていたとして勧告を行いました。2026年1月1日に施行された中小受託取引適正化法(取適法)の代金減額の禁止と、改正前の下請法の同じ禁止規定の両方について、違反が認定されています。
参考記事: 下請法改正と取引適正化(2025年6月24日)/労務費転嫁指針の改正と価格協議(2026年1月20日)
代金から何かを差し引く行為は、名目も金額も事案ごとに異なりますが、判断の枠組みは共通しています。本稿では、この勧告を素材に、控除がどう評価されるのかと、発注側で何を確認すべきかを整理します。
勧告の内容
公正取引委員会の公表資料によれば、事実関係は次のとおりです。トリドールホールディングスは、令和6年6月頃から令和8年5月頃までの間、食品等の卸売業を営む事業者に対し、自社が子会社に販売する食品の製造を、自社が指定した仕様、代金の額その他の取引条件で受注者37名に委託するよう依頼しました。卸売業者はその依頼どおりの条件を定めて受注者に製造を委託しています。
トリドールホールディングスは、卸売業者が提供する受発注機能等を持つ情報システムを利用して受注者と取引していました。卸売業者との間では、卸売業者がトリドールホールディングスにこのシステムを無償で利用させること、卸売業者が「システム利用料」の名目で代金の額に1.1%を乗じた額を受注者から徴収すること、卸売業者がその一部をトリドールホールディングスに支払うことが取り決められていました。受注者に対しては、「システム利用料」の名目でこの額を卸売業者に支払うべきことが説明されていたとされています。
この取決めの下で、卸売業者は受注者からの請求を受けるたびに代金から1.1%相当額を差し引いて支払い、トリドールホールディングスからは代金相当額の支払を受けたうえで差引額の一部を同社に渡す方法で清算していました。差引きは令和6年8月から令和8年7月までの間、例外なく一律に行われ、このうち令和6年8月から令和7年12月までに差し引かれた額は1億4741万1330円です。
勧告の主文は、金銭の支払だけではありません。
- 受注者37名に減額分を速やかに支払い、令和8年1月以降の委託に係る分には年14.6%の遅延利息を付すこと
- 違反に当たることと、今後減額しないことを取締役会の決議により確認すること
- 発注担当者への研修など、社内体制の整備のために必要な措置を講ずること
- 勧告の内容と採った措置を役員・従業員に周知し、取引先の中小受託事業者に通知したうえで、公正取引委員会に報告すること
取締役会の決議、社内研修、取引先への通知までが主文に書き込まれているため、対応は調達部門だけでは完結しません。
発注名義と委託事業者の認定
本件で受注者への発注を行っていたのは卸売業者です。それでも委託事業者とされたのは、製品仕様、受注者の選定、代金の額のいずれもトリドールホールディングスが決めており、卸売業者は発注業務と代金の請求・支払を代行したにすぎないと認定されたためです。資本金も同社が3億円超、受注者が3億円以下でした。
公正取引委員会・中小企業庁の中小受託取引適正化法テキスト(令和7年11月)は、商社が発注者と外注取引先の間に入る取引を2つに分けています。商社が委託の内容に全く関与せず事務手続を代行しているにすぎない場合は、発注者が委託事業者、外注取引先が中小受託事業者となり、発注者には商社と外注取引先との間の取引内容を確認して商社を指導することが求められます。商社が内容に関与している場合は、発注者から商社への委託と、商社から外注取引先への委託とに分け、それぞれについて資本金または従業員数の基準を満たすかを判断します。満たす関係が規制の対象になります。間に事業者を立てても、それだけで規制の対象から外れるわけではありません。
控除の減額該当性
取適法の適用対象となる取引について、控除が減額に当たるかどうかを判断する際の中心は、発注時に定めた代金の額が支払時に減っているかと、その減額について受注者の責めに帰すべき理由があるかの2点です。取適法5条1項3号の文言は次のとおりで、改正前の下請法4条1項3号も同じ構造です。
三 中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、製造委託等代金の額を減ずること。
取適法テキストは、この規定について、歩引きやリベート等の減額の名目、方法、金額の多少を問わず、発注後いつの時点で減じても違反になるとしています。これまでに違反とされた名目は30を超え、その中には「物流及び情報システム使用料」も含まれます。業界の慣行であることや、減額についてあらかじめ合意していることだけで、違反を免れるものではありません(Q94、Q96)。
システム利用料については、同テキストが名指しで扱っています。委託事業者が受注者に電磁的記録の提供を行うこととした場合に、システム開発費、保守費、発注情報の提供に要する費用といった本来委託事業者が負担すべき費用をシステム利用料等として代金から徴収している場合や、システムが稼働していないのに徴収しているなど単に名目として徴収しているにすぎない場合は、代金の額を減ずることに該当するという整理です。もっとも、受注者の利用状況に応じて追加的に発生する費用を、受注者が得る利益の範囲内で負担してもらうことは、これに当たらないとされています。分かれ目は、その費用が本来どちらの負担かと、受注者に利益があるかです。本件で問題になったのは、システムを無償で利用していた発注者の側が、代金から一律に徴収していた点にあります。
発注時に定めた代金からの減額は、受注者との事前の合意だけで適法になるものではありません。振込手数料について、同テキストは受注者が負担する旨の合意の有無にかかわらず、これを負担させて代金の額から差し引くことは違反として問題になるとしています(Q99)。改正前の運用にあった実費の範囲内なら差し支えないという整理は、そのままでは使えません。
一方で、代金から差し引くことがすべて減額になるわけではありません。同テキストは、受注者に販売した商品等の対価や貸付金等の弁済期にある債権を代金から差し引くことは「減ずること」に当たらないとしています。一定期間内に一定数量を超えた発注を達成した場合の割戻金(ボリュームディスカウント)も、内容が取引条件として書面等で合意され、発注書面に明示した代金の額と合わせて実際の代金の額とすることが合意されているなどの要件を満たせば、減額には当たりません(Q95)。
新旧法の適用関係と遅延利息
改正法(令和7年法律第41号)の附則2条2項は、施行後にした製造委託等について新法の規定を適用し、施行前にした製造委託等については従前の例によるとしています。基準になるのは製造委託等をした時期であって、減額をした時期ではありません。
本件では、令和7年12月までになされた委託に係る減額に改正前の下請法4条1項3号が、令和8年1月以降になされた委託に係る減額に取適法5条1項3号が適用され、1件の勧告書の中で新旧の条文が並んで引かれています。勧告の根拠条文も、改正前の下請法7条2項と取適法10条1項の両方です。
新旧で実務上の差が最も大きいのは遅延利息です。
| 項目 | 改正前の下請法 | 取適法 |
|---|---|---|
| 減額の禁止 | 4条1項3号 | 5条1項3号 |
| 遅延利息 | 支払遅延が対象(4条の2) | 減額にも及ぶ(6条2項) |
| 勧告 | 7条2項 | 10条1項 |
| 用語 | 親事業者・下請事業者・下請代金 | 委託事業者・中小受託事業者・製造委託等代金 |
取適法6条2項は、中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに代金の額を減じたときは、減じた日または給付を受領した日から起算して60日を経過した日のいずれか遅い日から、減じた額の支払をする日までの期間について、日数に応じた遅延利息を支払わなければならないと定めています。率は年14.6%です。本件の主文でも、令和8年1月以降の委託に係る減額分についてこの利息が命じられました。
改正前の下請法では、減額分の返還が勧告で求められることはあっても、減額分は同法4条の2に基づく年14.6%の遅延利息の対象ではありませんでした。取適法では減額分にも同率の利息が生じるため、返還が遅れるほど委託事業者の負担が増える構造に変わっています。
発注側企業の点検
確認の起点は控除項目の棚卸しです。代金から差し引いているものを、勘定科目や名目ではなく「支払時に受注者の請求額から減っているか」という事実で洗い出します。
| 名目の例 | 確認すること |
|---|---|
| システム利用料 | 本来自社が負担すべき費用でないか、受注者に利益があり、その範囲内の負担か |
| 振込手数料 | 合意の有無にかかわらず、代金から差し引いていないか |
| 歩引き・協賛金 | 慣行や事前の合意を理由に、発注後に代金を減じていないか |
| 割戻金 | ボリュームディスカウントとしての要件を満たすか |
| 貸付金等の債権 | 弁済期にある債権を差し引くものか |
そのうえで、次の点を順に見ていくことになります。
第一に、控除が支払システムに組み込まれていないかです。本件のように例外なく一律に差し引かれる設定は、担当者の判断が介在しないぶん発見が遅れます。個別の稟議ではなくマスタ設定やシステムの仕様書を見る必要があります。
第二に、取引スキームです。商社や卸を介する取引で、仕様・相手方・代金を実質的に自社が決めているものがないかを確認します。仲介者が発注内容の決定に全く関与せず事務手続を代行しているにすぎない場合には、発注書の名義にかかわらず、実質的に委託内容を決定した事業者が委託事業者とされます。
第三に、相手方の属性判定です。取適法では従来の資本金基準に加えて従業員基準が入りました。物品の製造・修理、特定運送、プログラムの作成、運送・倉庫保管・情報処理といった政令で定める役務の委託では常時使用する従業員300人、それ以外の情報成果物作成委託・役務提供委託では100人が基準になります。従業員基準は、資本金基準が適用されない場合に適用されます。相手方が従業員を使用しない個人等である場合は、フリーランス法の適用もあわせて検討することになります。
第四に、記録です。価格の据置きや条件変更について協議した経緯が残っていなければ、事後に説明することは困難です。取適法では協議に応じない一方的な代金決定が禁止されており、この点は労務費転嫁指針の改正と価格協議で整理しています。
勧告を受けた企業には、社名と違反事実が公表されます。本件の主文が取引先への通知まで求めていることを踏まえると、取引関係への影響は公表にとどまりません。控除の仕組みが全社的に運用されている場合ほど、対象となる期間と金額は積み上がります。
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当事務所では、契約書作成・レビューにおいて、取引基本契約や発注書面における控除項目・支払条件の設計と見直しに対応しています。商社や卸を介する取引スキームで誰が委託事業者に当たるかの整理、相手方の属性判定の基準づくりも、契約の検討とあわせて扱います(法務コンサルティング)。
控除が支払システムの設定として運用されている場合、点検は法務だけでは完結しません。購買・調達の規程と支払の仕組みを対象にした点検の設計や、発注担当者向けの研修も扱っています(内部統制構築)。
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