文化庁の「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(令和6年7月31日)は、AI利用者が事前に確認しておくべき情報の一つとして、利用しようとするサービスの利用規約等を挙げています。
③ AIシステム・サービスの利用規約等:AIシステム・サービスにおいては、利用規約等の当該システム・サービスの利用上のルールにおいて、著作権侵害のおそれがある利用方法を禁止又は制限している場合があります(他人の著作物を入力することの禁止等)。あらかじめ、利用しようとするAIシステム・サービスの利用規約等を確認し、これに従って利用することが必要です。
出典: 文化庁著作権課「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」18頁
ただし、規約のどこを見るのかまでは示されていません。生成AIの著作権リスクと社内規程の設計で社内規程の構成を扱いましたが、規程に「利用規約を確認すること」と書いたところで、確認する項目が決まっていなければ運用されません。実際、当事務所が利用規程の整備に関与する場面でも、どのサービスを社内で使ってよいかを決める段階でこの点が問題になります。
本記事では、利用規約等のうち著作権・学習利用・生成物の取扱いに関わる部分に絞り、主要なサービスの規約に共通して置かれている条項をもとに、確認すべき項目を次の6つに整理しました。
- 適用される規約の特定 — 消費者向け・法人向け・API向けのうち、自社に適用される文書はどれか
- 入力データの学習利用 — 入力した内容がモデルの学習に使われるか
- 生成物の権利帰属 — 生成物の権利が誰に帰属すると定められているか
- 生成物の一意性 — 他の利用者に同じ出力が返ることを規約が想定しているか
- 著作権補償の射程 — 第三者から権利主張を受けた場合にベンダーが防御するか、その条件は何か
- 準拠法と改定 — どの言語・どの国の法律が基準になり、条件はいつ変わるか
各項目について、まず実務上の論点を示し、次に主要なサービスの規約に実際どう書かれているかを示します。
適用される規約の特定
実務上の論点
可否は、サービス名ではなく契約形態とプランの単位で決める必要があります。同じ社名・同じモデルであっても、消費者向けと法人向けとでは、後述する学習利用や補償の条件が別物になるためです。「このサービスは利用可」というサービス名単位の可否リストは、判断の根拠になりません。
あわせて確認すべきなのが、従業員が個人アカウントで業務に使っている場合の扱いです。法人契約で交渉した条件は、その契約の下で使われた分にしか及びません。会社が把握していない個人アカウントでの利用が残っていれば、規約の検討そのものが空振りになります。利用実態の棚卸しは、規約の確認と同時に行うべき作業です。
主要サービスの記載例
主要なベンダーは、消費者向け・法人向け・API向けで別の規約を並行して公開しています。Anthropic であれば、個人利用にはConsumer Terms of Serviceが、法人契約にはCommercial Terms of Serviceが適用されます。OpenAI も、個人向けのTerms of use(2026年1月1日発効)とは別に、事業者向けのServices Agreement(2026年1月1日発効)を公開しています。
自社に適用されるのがどの文書かは、契約主体、プラン、画面から使うのかAPIから使うのかによって変わります。この特定を済ませないまま条文を読んでも、以下の項目は検討できません。
入力データの学習利用
実務上の論点
入力した内容が学習に使われるかどうかは、契約形態によって扱いが分かれます。実務上重要なのは、その2つが管理の手間として全く違うという点です。
オプトアウト型は、各利用者が各アカウントで設定を維持していることが前提になります。入社・退職・端末追加・アカウント再作成のたびに確認が必要で、設定が戻っていないことを会社が継続的に検証する仕組みまで用意しなければ、実効性を担保できません。契約上そもそも学習されない形態を選ぶほうが、管理コストは小さく済みます。
個人情報を入力する場合には、著作権とは別に個人情報保護法の検討が加わります。個人情報保護委員会は「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日)において、個人情報取扱事業者が個人情報を含むプロンプトを入力する場合、それが特定した利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認するよう求めています。あわせて、入力した個人データが応答結果の生成以外の目的で取り扱われないことの確認にも言及されています。学習利用に関する規約の条項は、この確認の材料として直接効いてきます。
主要サービスの記載例
消費者向けの規約では、学習に使うことを原則とし、利用者側の設定で除外できるという建て付けが一般的です。Anthropic のConsumer Terms of Service(2025年10月8日発効)は、アカウント設定で学習をオプトアウトしない限りモデルの学習に用いる旨を定めています。ただしオプトアウト後も、フィードバックとして送った内容や、安全性の確認のためにフラグが付された内容については利用されうるとされており、例外の範囲もあわせて確認する必要があります。OpenAI のTerms of use(2026年1月1日発効)も、学習に使われたくない場合は設定で除外できるという書き方です。
これに対し、法人向けでは学習しないことが原則になります。ただし、その定めがどこに置かれているかはサービスによって異なります。
Anthropic は契約条項そのものに置いています。Commercial Terms of Service(2025年6月17日発効)は次のように定めています。
Anthropic may not train models on Customer Content from Services.
出典: Anthropic「Commercial Terms of Service」
OpenAI は、ChatGPT Business(旧 ChatGPT Team)・Enterprise および API について、既定では入力・出力をモデルの学習に用いないとしています。API では利用者が明示的にオプトインした場合に限り学習の対象となり、何もしなければ対象外です。この扱いを説明しているのが「How your data is used to improve model performance」です。
Google も、Gemini for Google Cloud のドキュメントで次のように明記しています。
Gemini for Google Cloud doesn’t use your prompts or generated responses for training or fine-tuning our underlying models.
出典: Google Cloud「How Gemini for Google Cloud works」
同じ「学習しない」でも、契約条項に置かれている場合と、方針の説明ページや製品ドキュメントに置かれている場合があります。 もっとも、後者が契約上の意味を持たないわけではありません。規約がポリシーやドキュメントを参照して契約内容に組み込む構造をとっていることは珍しくなく、その場合は組み込まれた文書も契約の一部になります。
したがって社内審査では、記載の有無だけでなく、その文書が契約に組み込まれているか、文書間の優先順位はどうか、どのような手続で改訂されるかまで確認する必要があります。組み込まれていない説明ページであれば、ベンダーが一方的に書き換えたときに拠り所を失います。
生成物の権利帰属
実務上の論点
規約は権利の帰属先を決めるだけで、権利の発生を決めるものではありません。
前掲記事で整理したとおり、文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)は、人の創作意図と創作的寄与が認められない生成物は著作物に該当しないと整理しています。規約に「あなたのものです」と書かれていても、著作物性が認められなければ、少なくとも著作権については移転の対象となる権利が発生しません。
したがって、生成物を独占的に使うことを前提にした事業計画や、著作権譲渡を前提にした取引先との条項は、規約の記載だけを根拠に組み立てることができません。権利が生じるかどうかは、人がどこまで表現を決めたかという別の判断に委ねられます。
主要サービスの記載例
主要なサービスは、生成物の権利が利用者に帰属することを明記しています。Anthropic のCommercial Terms of Serviceは「Customer (a) retains all rights to its Inputs, and (b) owns its Outputs.」と定め、OpenAI のTerms of useも入力の権利は利用者が保持し、出力は利用者が所有すると定めています。
見落とされやすいのは、この帰属の定めに複数の留保が重ねられていることです。Anthropic の Consumer Terms を例にとると、2文のなかに4つの条件が入っています。
As between you and Anthropic, and to the extent permitted by applicable law, you retain any right, title, and interest that you have in the Inputs you submit. Subject to your compliance with our Terms, we assign to you all of our right, title, and interest—if any—in Outputs.
出典: Anthropic「Consumer Terms of Service」
- As between you and Anthropic — ベンダーと利用者の間の相対的な取決めにすぎず、第三者との関係で権利を保証するものではない
- to the extent permitted by applicable law — 準拠法が認める範囲に限られる
- Subject to your compliance with our Terms — 規約に違反していれば譲渡の前提が崩れる
- if any — 譲渡の対象になるのは、そもそも権利が存在する場合に限られる
とりわけ 「if any」 は、前段の著作物性の議論と直結します。ベンダーが権利を主張しないことは約束されていますが、生成物に著作権が発生することまで保証されているわけではありません。OpenAI のTerms of useも「all its right, title, and interest, if any, in and to Output」と同じ書き方をしています。
生成物の一意性
実務上の論点
同種の指示を与えれば他者にも似た出力が返る可能性があるという前提は、用途の選定に直結します。ロゴ、キャッチコピー、商品名、デザインのように、他者が同じものを使わないことに価値がある成果物については、生成AIから得たというだけでは事実上の独自性が担保されません。
対応としては、独占性が必要な成果物についてAI生成物をそのまま最終形としない、人手による作り込みの工程を挟む、あるいは事前の調査によって既存の使用状況を確認するといった運用上の切り分けが必要になります。この点は用途ごとに結論が変わるため、社内ルールでは「生成AIの利用可否」ではなく「どの用途にどの条件で使えるか」という形で書くほうが機能します。
主要サービスの記載例
出力が一意でない可能性を、規約に明記しているサービスもあります。
Due to the nature of our Services and artificial intelligence generally, output may not be unique and other users may receive similar output from our Services.
出典: OpenAI「Terms of use」
著作権補償の射程
実務上の論点
第三者から権利侵害の主張を受けた場合に、ベンダーが利用者を守る条項を置くサービスがあります。ベンダーが負う義務は、防御と補償の2つです。
- 防御(defend) — 第三者からの請求や訴訟への対応を引き受ける義務。誰が弁護士を選任し、訴訟や和解を主導するかは条項によって異なる
- 補償(indemnify) — 判決・仲裁判断・和解等によって生じた金額を負担する義務。対象となる金額の範囲や弁護士費用の扱いは条項によって異なる
いずれも、負担の対象がどこまで及ぶか、誰が防御を主導するか、利用者に何が求められるかは、条項によって異なります。
そのうえで、複数のベンダーの補償条項には、次のような除外事由や条件が繰り返し現れます。具体的な内容はサービスごとに異なるため、当てはめは個別に行う必要があります。
- 対象が有償プランや指定サービスに限られる — 無料利用や個人向けプランは対象外とされることが多い
- 安全機能の有効化や評価の実施が条件になる — フィルタや出典表示を切ると外れる場合がある
- 商標権・特許権が除外または別扱いになる — 著作権と同列に守られるとは限らない
- 改変や他技術との組合せが除外事由になる — 生成物に手を入れた後の成果物が当然に対象になるとは限らない
補償条項は無条件の保険ではありません。 補償の付いたサービスを選定するだけでは足りず、条件を満たす設定を維持し、その事実を後から示せる記録を残す運用まで含めて初めて意味を持ちます。設定の変更履歴や評価の結果を残していなければ、いざクレームを受けたときに条件充足を立証できません。
さらに前提として、これらはあくまで民事上の防御に関する当事者間の取決めです。補償が付いていることと、その利用が著作権法上適法であることは別の問題です。
主要サービスの記載例
Anthropic のCommercial Terms of Serviceは、有償の利用および当該利用によって生成された出力が第三者の知的財産権を侵害するとの主張について、顧客を防御する旨を定めています。
負担の対象は、裁判所の判決、仲裁判断、および Anthropic が承認した和解によって第三者に認められた金額です。裏を返せば、顧客が独自に成立させた和解は当然には含まれません。弁護士費用についても、補償の対象として明示されてはいません。この切り分けは、利用者側の義務と対応しています。同規約は、請求を受けたことを速やかに通知し、防御に合理的に協力することを求める一方、弁護士の選任・訴訟戦略・和解交渉は Anthropic が主導すると定めています。早期に和解して事を収めたい場合でも、その判断は利用者の手にありません。
対象から外れる場面も定められています。顧客が出力に加えた改変、Anthropic 以外の技術との組合せ、他者の権利を侵害する態様での利用、出力に含まれる特許発明の実施、出力の商業使用に伴う商標権侵害は、いずれも除外されています。
金額の上限についても定めがあります。同規約は、当事者が負う賠償額を「直近12か月に顧客が支払った利用料」を限度とする一般的な上限条項を置いていますが、補償義務はこの上限の対象から除かれています。 つまり、第三者からの権利侵害の主張で高額の支払いが生じた場合でも、Anthropic の負担が支払済みの利用料の範囲で頭打ちになることはありません。補償条項を評価するときは、条項の有無だけでなく、それが上限条項の外に置かれているかどうかまで見る必要があります。
Microsoft は、Customer Copyright Commitment による防御を受けるための条件を、専用のページで具体的に定めています。Azure OpenAI 等では、次の実装が条件とされています。
- 著作権侵害を防ぐよう指示する内容を、システム側のプロンプトに組み込んでおくこと
- 既存の著作物がそのまま出力されるのを検知・遮断する機能を、有効にしておくこと
- 第三者のコンテンツが出力されていないかを検証し、その結果と対応の記録を保持して、請求時に Microsoft へ提出できるようにしておくこと
具体的にどの機能をどの設定で有効にするかは、モデルと用途ごとに同ページで定められています。同ページは、顧客が防御を求める際に、これらの要件を満たしていたことを立証する必要がある旨も明記しています。
Google Cloud は、学習データに関する補償と生成物に関する補償を分けて設けています。対象となるサービスはGenerative AI Indemnified Servicesに列挙されており、同ページは、補償義務の内容がService Specific Termsの「Additional Google Indemnification Obligations」に置かれていると示しています。生成物側の補償について、Google は利用者側の行為を条件として挙げています。
this indemnity only applies if you didn’t try to intentionally create or use generated output to infringe the rights of others, and similarly, are using existing and emerging tools, for example to cite sources to help use generated output responsibly.
出典: Google Cloud「Protecting customers with generative AI indemnification」(2023年10月13日)
侵害を意図していないことと、出典表示等の機能を使っていることが前提になるという整理です。
準拠法と改定
実務上の論点
海外ベンダーの規約では、契約主体や利用地域によって、英語を正文とし、日本以外の法律を準拠法とする場合が少なくありません。日本語版が用意されている場合でも、解釈が分かれたときは英語版が優先する旨が定められていることが多く、社内審査は英語の条文に当たって行う必要があります。
また、規約の条件は固定ではありません。利用開始時点で条件を満たしていても、その後の改定で満たさなくなることがあります。 稟議や審査を行った時点の規約の版を保存し、いつの版に基づいて判断したかを記録に残す必要があります。これをしていないと、数年後に問題が生じたとき、当時の条件を再現できません。あわせて、規約改定の通知を受け取る窓口と、再確認を行う契機(改定通知の受領時、新たな機能の利用開始時、年次の見直し時)を決めておく必要があります。
主要サービスの記載例
主要な規約には効力発生日が付されています。前掲の Anthropic の規約はCommercial Terms of Serviceが2025年6月17日、Consumer Terms of Serviceが2025年10月8日、OpenAI のTerms of useが2026年1月1日の版として公表されています。Microsoft が定める前掲の条件にも、項目ごとに適用開始日が付されています。共通の要件は2023年12月1日から適用されており、新たな条件が追加された場合は、公表から6か月以内に実装しなければ補償の対象から外れるとされています。
Google Cloud のService Specific Termsは、改定日が明示されています。どの版に基づいて判断したかを記録に残しやすい形です。
一方、前掲の学習利用のように、根拠が方針の説明ページや製品ドキュメントに置かれている場合は、版の日付が示されないことがあります。この場合は、参照した時点の内容を自社側で保存しておかなければ再現できません。 どの文書に依拠しているかによって、記録の取り方を変える必要があります。
社内ルールへの落とし込み
以上を踏まえると、生成AIの利用規程で規約に関して定めるべき事項は次のように整理できます。
- 可否の単位 — サービス名ではなく、契約形態とプランの単位で許諾する
- 入力の制限 — 機密情報・個人情報を入力してよい契約形態を限定し、オプトアウト型のプランに依存しない
- 用途の切り分け — 社外公開物、独占性が必要な成果物、社内限りの利用で条件を分ける
- 補償を前提とする場合の条件維持 — 有効にしておくべき設定を定め、条件を満たしていた記録を保管する
- 再確認の契機 — 規約改定時・新機能導入時・年次の見直し
これらはいずれも、著作権法の解釈だけでは決まらず、自社がどのサービスをどう使うかという事実関係と組み合わせて初めて結論が出る事項です。規約の確認を担当部署の判断に委ねると、部署ごとに違う結論が出ます。確認項目そのものを規程または様式の形で固定しておくことが、運用を揃えるうえでは有効です。
ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス
当事務所では、AIガバナンス構築において、生成AIの利用実態の棚卸しから、利用するサービスの選定基準の策定、規程・ポリシー整備としての利用規程・手順書への落とし込みまで対応しています。AIモデルの開発を含む技術的な実務を扱っているため、コンテンツフィルタの設定やAPIの利用形態といった実装面まで踏み込んで検討します。
海外ベンダーの規約の検討や、取引先との間で生成物の権利帰属・利用条件を定める場合は契約書作成・レビューを、個別の論点について見解を示す必要がある場合は法律意見書の作成を扱っています。
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