ロジットパートナーズ法律会計事務所

2026年10月6日

競合提案がある株式交換と反対株主の買取価格

目次

最高裁判所第二小法廷は2026年9月30日、株式交換に反対した株主の株式買取請求について、競合する公開買付けの提案等の公表を理由に会社の提示額から増額した原決定を破棄しました(決定全文)。買取価格は、会社の提示額どおりとされています。事案は、2021年に食品スーパーの経営統合をめぐって争われた関西スーパーマーケットの株式交換です。

組織再編に反対した株主は、会社に対して自己の株式を「公正な価格」で買い取るよう請求できます(会社法797条1項)。上場会社の組織再編では市場株価を基礎に価格を定めるのが通例ですが、本件では対抗する買収提案の価格が市場株価を大きく上回っており、その価格を買取価格に反映させるべきかが争点になりました。この記事では、決定が示した判断の枠組みと、競合提案がある局面で会社と株主のそれぞれが押さえておくべき点を整理します。

参考記事: 会社法上の非上場株式の価格決定(2026年7月14日)

事案の経過

事案の全体像は次のとおりです。

時期出来事
2021年8月31日株式交換契約の締結・公表(前日終値1,320円、当日終値1,538円)
2021年9月3日オーケーが競合提案を公表
2021年9月以降取締役会が算定書等の情報と検討過程を公表し、買取価格の考え方を説明
2021年10月29日株主総会が議決権の3分の2以上の多数で株式交換契約を承認
2021年12月14日最高裁がオーケーの許可抗告を棄却し、差止めの仮処分の申立てを却下した大阪高裁の決定が確定
2021年12月15日株式交換の効力発生
2022年1月6日会社が買取価格1,518円を提示
2022年2月10日協議の調わない株主7名について、会社が神戸地裁に価格決定を申立て
表1:株式交換と買取請求の経過(最高裁決定の認定事実と会社の公表文書をもとに当事務所作成)

競合提案と株式交換の選択

関西スーパーマーケットは2016年10月にエイチ・ツー・オーリテイリングと資本業務提携契約を締結し、2021年8月時点で同社は関西スーパーの株式の10.66%を保有していました。他方、オーケーによる関西スーパーの株式の保有割合は7.69%でした。同社は2021年6月に関西スーパーの子会社化を計画して公開買付けの実施を提案し、翌7月には買付価格を1株2,250円とすることを明らかにしました。

この競合提案を受けて、関西スーパーは、エイチ・ツー・オーリテイリングの子会社となる対価として同社の完全子会社であるイズミヤと阪急オアシスの全株式を取得する株式交換の検討を始めました。両案を比較検討して関係者と交渉させるため、三社のいずれとも利害関係のない弁護士と社外取締役で構成する特別委員会が設置されています。特別委員会が検討した株式価値算定書には、株式交換後の関西スーパーの1株当たりの理論株価をDCF法により2,400〜3,018円または1,787〜3,128円と試算するものがありました。

特別委員会は2021年8月31日、株式交換を選択すべきである旨を答申しました。株式交換によって株主が享受できる利益は競合提案によるものを上回るか少なくとも遜色なく、業態が共通するイズミヤと阪急オアシスとの統合のほうが企業価値の向上に資する、という理由です。関西スーパーは同日、株式交換契約を締結して公表しました。

承認決議までの開示と説明

差止めの仮処分では臨時株主総会での議決権行使の集計が争われ、買取価格は争点になっていません。

取締役会は2021年9月以降、反対株主が買取請求をした場合の買取価格は会社法797条1項の「公正な価格」であり、競合提案の買付価格に拘束されないと説明しました。算定書の試算は理論株価であり、直ちに市場株価として実現する保証はないという点も、説明に含まれていました。会社が株主向けに公表した経営統合に関するFAQ(第3回)(2021年10月20日)にも、提示する買取価格は公開買付けの価格に拘束されず、裁判所が決定する場合でもその価格になる保証はないとの説明があります。株主総会の承認決議は、こうした説明を受けたうえで行われました。

買取請求と価格決定の申立て

承認決議の後、2021年11月13日から12月12日までの間に、反対株主から株式買取請求がされました。買取請求は効力発生日の20日前の日から前日までの間に行う必要があり(797条5項)、本件では当初12月1日とされていた効力発生日が、買取請求期間の開始後に12月15日へ延期されています(効力発生日延期に関するお知らせ)。会社の公表によれば、請求をした株主は15名、対象株式は合計486万6,000株です。関西スーパーは、承認決議の翌取引日である2021年11月1日から各株主の請求日までの期間について、株主ごとに終値の出来高加重平均値を算出しました。そのうちの最高額である1株1,518円を、2022年1月6日の取締役会で買取価格として提示しています(買取提示価格の決定に関するお知らせ)。競合提案をしていたオーケーも同日、この価格で合意しています(買取価格の合意に関するお知らせ)。他方、7名の株主(合計157万2,200株)との協議は効力発生日から30日以内に調いませんでした。会社(当時の商号は関西フードマーケット)は2022年2月10日、神戸地方裁判所に価格決定を申し立てています(798条2項、株式買取価格決定の申立てに関するお知らせ)。

原々決定は会社の提示額どおり1,518円としましたが、原決定はこれを変更し、提示額に10%を加えた1,670円を公正な価格と定めました。会社が許可抗告し、最高裁は原決定を破棄して原々決定に対する各抗告を棄却しました。

「公正な価格」の判断枠組み

反対株主の株式買取請求権は、会社法797条1項が定めています。

吸収合併等をする場合には、反対株主は、存続株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
出典: 会社法797条1項(ただし書を省略)

条文は「公正な価格」とだけ定めており、その内容は判例の積み重ねによって具体化されてきました。本決定もその枠組みに沿って判断しています。

先例の枠組み

会社法の「公正な価格」は、反対株主に対して、組織再編がなかった場合の経済状態を保障するだけでなく、組織再編によってシナジー効果その他の企業価値の増加が生じる場合には、その増加分の公正な分配まで保障する趣旨のものです。組織再編は会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為であり、これを株主総会の多数決により可能とする反面、反対株主には退出の機会が与えられます。退出を選択した株主には、組織再編がされなかったとした場合と経済的に同等の状態が確保され、企業価値の増加が生じる場合にはこれが適切に分配されます(最高裁平成23年4月19日決定・楽天対TBS事件・民集65巻3号1311頁、決定全文)。

このため、「公正な価格」の意味は、組織再編によって企業価値の増加が生じない場合と、それ以外の場合とで分かれます。増加が生じない場合は、承認決議がなければ基準日に株式が有したであろう価格を指し、ナカリセバ価格と呼ばれます。それ以外の場合は、組織再編の条件が公正なものであったならば基準日に株式が有していると認められる価格を指し、シナジー分配価格などと呼ばれます(最高裁平成24年2月29日決定・テクモ事件・民集66巻3号1784頁、決定全文)。いずれの場合も、買取請求がされた日を基準日とします。

企業価値の増加公正な価格
生じない承認決議がなければ基準日に有したであろう価格(ナカリセバ価格)
それ以外条件が公正であったならば基準日に有する価格(シナジー分配価格)
表2:「公正な価格」の二つの意味(最高裁の先例をもとに当事務所作成)

シナジー分配価格を定めるには、組織再編の条件が公正であったかどうかの判断が必要になります。株式交換であれば、株式交換比率の公正さです。判例は、裁判所が公正な条件を独自に算定するのではなく、当事会社が合意した条件を信頼してよいかを、承認に至る手続によって判断します。

相互に特別の資本関係がない会社間であれば、忠実義務を負う取締役が会社と株主の利益にかなう契約を締結することが期待できます。株主も、自らの利益がどう変化するかを考慮したうえで、条件が公正と判断した場合に賛成するといえます。そこで、株主の判断の基礎となる情報が適切に開示されたうえで適法に株主総会で承認されるなど、一般に公正と認められる手続により組織再編の効力が発生した場合には、条件は公正なものとみるのが相当とされました(前掲テクモ事件決定)。例外は、株主の合理的な判断が妨げられたと認めるに足りる特段の事情がある場合に限られます。

相互に特別の資本関係がない会社間とはいえないなど、取締役による忠実義務の適切な履行等を当然には期待できない場合には、意思決定過程の恣意性を排除するための措置が意味を持ちます。ジュピターテレコム事件決定は、多数株主による公開買付けとその後の全部取得条項付種類株式の取得という二段階買収について、独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ、一般に公正と認められる手続により公開買付けが行われたときは、取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り、取得価格を公開買付価格と同額とすべきであるとしました(最高裁平成28年7月1日決定・ジュピターテレコム事件・民集70巻6号1445頁、決定全文)。忠実義務の履行を当然には期待できない場合でも、恣意性を排除する措置と公正な手続を経ていれば、当事者が定めた取引条件を尊重する判断です。

条件が公正とみられる場合、公正な価格は、その条件を前提に基準日の株式の価値を算定して定めます。上場株式であれば、市場価格が企業の客観的価値を反映していないことをうかがわせる事情がない限り、市場株価が基礎資料になります。条件の公表後の市場株価は、特段の事情がない限り、公正な条件による組織再編を織り込んで形成されているとみられます。そこで、基準日の市場株価を用いることも、偶発的な変動の影響を排除するためにこれに近接する一定期間の平均値を用いることも、裁判所の合理的な裁量の範囲内にあるとされています(前掲テクモ事件決定)。条件が公正とみられない場合や、企業価値の増加が生じない場合には、裁判所が合理的な裁量により価格を算定します。

本件への当てはめ

最高裁は、この枠組みに沿って本件を判断しました。

判断事項本件の事情最高裁の判断
増加の有無公表後の市場株価が公表前の水準を上回って推移増加が生じないということはできない
比率の公正資本業務提携があり、独立した特別委員会が比較検討と交渉を行い、算定書等を開示して承認一般に公正と認められる手続により効力が発生しており、比率は公正
価格の算定決議の翌取引日から請求日までの終値出来高加重平均の最高額を提示株式交換を織り込んでいないとみられる特段の事情はなく、算定過程に不合理な点はない
表3:本件への当てはめ(最高裁決定をもとに当事務所作成)

比率の公正さについて、最高裁は、関西スーパーとエイチ・ツー・オーリテイリングに資本業務提携があることから、特別の資本関係がない会社間と同列には扱えないと述べています。そして、ジュピターテレコム事件決定を参照し、このような場合でも、意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられたうえで比率が定められ、一般に公正と認められる手続により効力が発生したときは、特段の事情がない限り比率を公正とみるとしています。そのうえで、三社のいずれとも利害関係のない弁護士と社外取締役で構成する特別委員会が、複数の専門家の意見を聴き、競合提案と比較検討し、議決権割合の引下げなど会社に有利な条件を引き出す実質的な交渉をしたことを挙げました。最高裁は、取締役会が算定書等の情報と検討過程を公表し、買取価格が競合提案の買付価格に拘束されないことや試算は理論株価であることを説明したうえで承認決議がされた点も、公正な手続の要素として評価しました。

ここまでの当てはめは、原決定も同じ結論でした。今回の最高裁決定と原決定は、この枠組みの外にある事情である、競合提案と試算が公表されていたことを価格に反映させるかどうかで判断が分かれています。

最高裁の判断

競合提案と理論株価の試算が公表されていたことの扱いが問題となります。原決定は、提示額を10%増額した1,670円を公正な価格としました。その理由は、本件では競合提案と理論株価の試算が公表されており、株式交換比率は関西スーパーの株式が株式交換後にそれらで示された価値を有することを前提に決められてきたのであって、承認決議に賛成した株主も同じ認識であったと解されるから、公表の事実を買取価格の算定で考慮しないのは公正さを欠く、というものでした。これに対して最高裁は、次のように述べています。

本件競合提案や本件試算が公表されていたことは、それ自体が上記趣旨にいう企業価値の増加をもたらすものではない。そして、本件決議に先立ち、本件試算は理論株価であって直ちに市場株価として実現する保証はないことなどが説明されており、上記の公表がされていたことにより本件株主総会に先立つ情報の開示等に問題があったということはできない。このような状況の下で、本件競合提案ではなく、本件株式交換契約を承認する本件決議がされたのであるから、反対株主において本件競合提案が実現していたとすれば得られたであろう利益を得るべき理由はなく、上記の説明がされていた本件試算を抗告人の株式の買取価格の算定において改めて考慮しなければならない理由もない。
出典: 最高裁令和8年9月30日第二小法廷決定

買取請求権は、株主総会で株式交換が承認されたことの効果として認められます。この権利により、株式交換がされなかった状態と経済的に同等の状態の確保と、株式交換によって生じる企業価値の増加の分配が保障されます。競合提案の公表は株式交換の企業価値を増加させるものではなく、試算については実現の保証がない旨が事前に説明されていました。最高裁は、このような状況の下で承認決議がされた以上、実現しなかった競合提案から得られたであろう利益を反対株主に取得させる理由はなく、公表を理由に提示額を増額しなければ公正を欠くとはいえないとしました。なお、原決定が増額の根拠とした「決議に賛成した株主も同様の認識であった」という点には、直接は触れていません。

最高裁は、承認決議の翌取引日から各株主の買取請求日までの終値出来高加重平均値を株主ごとに算出し、その最高額を提示する方法についても、算定過程に不合理な点はないと判断しています。会社側が設計した算定方法は、先例が認めてきた「基準日に近接する一定期間の市場株価の平均値」の一つの具体例として是認されました。

実務上の示唆

本決定を踏まえ、競合提案がある局面で株式交換を進める会社と、その反対株主が押さえておくべき点は次のとおりです。

株式交換を進める会社

比率を決める過程では、独立した特別委員会による比較検討と実質的な交渉、株式価値算定書等の情報と検討過程の開示が、手続の公正さを支えます。本件のように競合する買収提案や高い理論株価が株主に示されている局面では、これに加えて、それらの数値と反対株主の買取価格との関係を承認決議の前に説明しておくことに意味があります。本件では、買取価格が競合提案の買付価格に拘束されないこと、理論株価の試算には実現の保証がないことが事前に説明されており、最高裁はこの説明等を踏まえて情報開示に問題はなかったとし、公表を理由に提示額を増額する必要はないと判断しました。

提示額の算定方法は、先例の許容する「基準日に近接する一定期間の市場株価の平均値」の範囲内であれば、不合理とはされにくいと考えられます。本件で会社が採った、承認決議の翌取引日から各株主の請求日までの終値出来高加重平均を株主ごとに算出して最高額を提示する方法は、その一例といえます。

反対株主

公正な手続を経て承認された株式交換では、競合提案が公表されていたこと自体は買取価格を増額させる理由にならない、というのが本決定の判断です。競合提案のほうが有利だと考える株主にとっては、株式交換に反対の議決権を行使して競合提案の実現を期待し、実現すればそれに応じることなどが基本的な選択肢になります。

価格決定手続では、開示の不備など株主の合理的な判断が妨げられた特段の事情の有無、提示額の基礎となった市場株価が株式交換を織り込んでいないとみられる特段の事情の有無、参照期間や平均の取り方を含む算定過程の合理性といった、手続と株価に関する事実が争点になります。

なお、本決定は上場株式の事案です。非上場株式には市場株価がないため、買取価格の決定では、どの評価手法を用いるか、その中で非流動性による減価を行うかが争点になります。

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当事務所では、バリュエーションにおいて、組織再編の対価や株式交換比率の検討、反対株主の買取請求に備えた価格の根拠の整理に対応しています。市場株価を基礎とする場合の参照期間と算定方法の設計、非上場株式の場合の評価手法の選択を、会社法上の価格決定の枠組みに沿って行います。

株式交換を含む組織再編のスキーム設計や、対価をめぐる交渉の支援も扱っています(M&A支援)。株式買取請求を受けた後の協議や価格決定の申立てとその対応、申立てに至る前の交渉も、あわせて扱います(争訟・紛争対応)。

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