ロジットパートナーズ法律会計事務所

2026年7月30日

EU AI Act改正(Digital Omnibus on AI)の発効

EU AI Actを改正する「Digital Omnibus on AI」(Regulation (EU) 2026/1744)が、2026年7月24日にEU官報(Official Journal)に掲載され、7月27日に発効しました。高リスクAIシステムに関する規定の適用延期を中心とする改正です。本記事では、改正の経緯と主な内容、日本企業への影響を整理します。

参考記事: EU AI Actの施行に向けた動き(2025年1月26日)/EU AI Act 汎用目的AIモデル規制の適用開始(2025年8月5日)

改正の経緯

Digital Omnibus on AIは、欧州委員会が2025年11月19日に提案した、デジタル分野の規制簡素化パッケージの一部です。EU AI Actは2024年8月の発効後、段階的な適用の途上にありましたが、整合規格の整備の遅れなどから、2026年8月2日に予定されていた高リスクAIシステム規制の適用開始に実務が間に合わないという懸念が産業界から示されていました。

その後、2026年5月6日に三者協議で暫定合意に達し、5月13日に理事会側で合意内容が確認されました。6月16日に欧州議会が可決し、6月29日に理事会が正式に採択(理事会プレスリリース)、7月24日のEU官報掲載を経て、7月27日に発効しました。

高リスクAIシステムの適用延期

高リスクAIシステムと附属書

EU AI Actは、AIシステムをリスクの大きさに応じて分類し、規制の強度を変えるリスクベースアプローチを採っています。「高リスク」はその中核的な類型で、禁止まではされないものの、リスク管理体制の整備、データガバナンス、技術文書の作成、人による監督、適合性評価といった重い義務が課されます。今回延期されたのは、この高リスクAIシステムに関する義務です。

どのAIシステムが高リスクに当たるかは第6条が定めており、判定には規則本体の末尾に付属する一覧表(附属書・Annex)が使われます。高リスクへの入口は2つあり、それぞれ参照する附属書が異なります。

  • 附属書I型(第6条第1項) — 附属書Iには、機械、玩具、昇降機、医療機器、体外診断用医療機器など、EUの製品安全法制(整合法令)が列挙されています。これらの法令の対象となる製品にAIが安全部品として組み込まれる場合(またはAIシステム自体がその製品である場合)で、当該法令上の第三者適合性評価が必要なものが高リスクとされます
  • 附属書III型(第6条第2項) — 附属書IIIには、生体識別、重要インフラの運営、教育・職業訓練、雇用・労働者管理、与信審査や公的給付など必要不可欠なサービスへのアクセス、法執行、出入国管理、司法・民主的プロセスの8分野について、高リスクとなる具体的なユースケースが列挙されています。これらに該当するAIシステムが原則として高リスクとされますが、限定的・手続的なタスクにとどまる場合など、除外される場合もあります(第6条第3項)
※高リスクの判定に使われるのは附属書IとIIIのみで、「附属書II型」という類型はありません。2021年の法案段階では製品安全法制のリストが附属書IIに置かれていたため、法案段階の解説資料には高リスクの文脈で「附属書II」が登場することがあります。

延期の内容

今回の改正による適用開始時期の変更は次のとおりです。

区分改正前改正後
附属書I型2027年8月2日2028年8月2日
附属書III型2026年8月2日2027年12月2日
表1:高リスクAIシステムに関する義務の適用開始時期(理事会・欧州議会の公表資料をもとに当事務所作成)
※機械規則(Regulation (EU) 2023/1230)の対象製品については今回の改正で特則が設けられ、AI Actの高リスク要件を機械規則側の法令に反映して適用する仕組みに変更されています。

提案段階では、延期の終期を整合規格の整備状況と連動させる仕組みが検討されていましたが、最終的には上記の固定期日による無条件の延期となりました。

一方、既に適用が始まっている部分は延期の対象ではありません。 従来からの禁止事項(2025年2月適用開始)、汎用目的AIモデル(GPAIモデル)に関する義務(2025年8月適用開始)はそのまま維持され、GPAIモデル提供者に対する欧州委員会の執行が2026年8月2日から始まるスケジュールにも変更はありません。

延期以外の主な変更

適用時期の延期のほかにも、次のような改正が含まれています。

  • 禁止行為(第5条)に、本人の同意のない性的・親密なコンテンツや児童性的虐待コンテンツの生成・操作に関する禁止が追加されました。この新しい禁止規定は2026年12月2日から適用されます
  • AIリテラシーに関する第4条が改正され、提供者・利用者は従業員等のAIリテラシーの向上を支援するための措置を講じるものとされました。従来の文言と異なり、特定の水準の確保までを求める義務ではないことが明確になっています
  • AI生成コンテンツに関する第50条の透明性義務は予定どおり2026年8月2日から適用されます。ただし、同日より前に市場投入された、合成音声・画像・動画・テキストを生成するAIシステムについては、提供者が第50条第2項のマーキング(機械可読な形式での表示)義務に対応する期限が2026年12月2日まで延長されています
  • このほか、GPAIモデルに関するAI Officeの調査権限の明確化、中小企業向け簡素化措置の対象拡張など、運用面の整理が行われています

日本企業への影響

高リスクAIシステムに該当しうる製品・サービスをEU市場で展開する企業にとっては、対応の準備期間が1年4か月から2年延びたことになります。ただし、「AI Actの適用が延期された」という報道の印象で全体が先送りされたと理解するのは危険です。上記のとおり、GPAIモデル規制と第50条の透明性義務は当初のスケジュールのまま進んでおり、特に透明性義務は2026年8月2日から適用が始まります。

また、延期されたとはいえ、自社の製品・サービスが附属書III型・附属書I型のいずれに該当しうるかの整理は、設計・開発の初期段階の判断に関わるため、適用開始を待たずに進めておくことが望まれます。

ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス

当事務所では、AIガバナンス構築において、AI活用に関する基本方針の策定、リスクの識別・評価と対応方針の検討、利用規程・手順書の作成、運用面の担保までに対応しています。EU AI Actのような海外規制の適用スケジュールを踏まえた対応課題の整理も、あわせて扱います。

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