ロジットパートナーズ法律会計事務所

2026年8月9日

EU AI Act GPAI規制の執行開始と各社の公表状況

2026年8月2日、EU AI Actの汎用目的AIモデル(GPAIモデル)規制について、欧州委員会による執行が始まりました。義務の適用開始(2025年8月2日)から1年が経過し、各モデル提供者の対応状況が具体的な形で見えてきています。本記事では、実践規範(Code of Practice)への署名状況と、第53条第1項(d)が求める学習データ要約の公表状況を整理します。

参考記事: EU AI Act 汎用目的AIモデル規制の適用開始(2025年8月5日)/EU AI Act改正(Digital Omnibus on AI)の発効(2026年7月30日)/EU AI Actの施行に向けた動き(2025年1月26日)

※各社の署名状況・公表文書は随時更新されます。本記事の記述は、本文中に示した各時点の情報に基づくものです。実際の検討にあたっては最新の情報をご確認ください。

執行の開始

GPAIモデル提供者の義務そのものは2025年8月2日から適用されていましたが、欧州委員会がAI Officeを通じて行う執行は2026年8月2日からとされていました。この日を境に、欧州委員会は提供者への文書提出要求や是正措置の要求、さらに第101条に基づく制裁金(全世界年間売上高の3%または1,500万ユーロのいずれか高い方が上限)の賦課が可能になっています。

なお、当初のスケジュールでは、同じ2026年8月2日に高リスクAIシステムへの義務を含むAI Act本体のほぼ全面的な適用が始まる予定でした。しかし、2026年7月に成立したRegulation (EU) 2026/1744(Digital Omnibus on AI)により適用スケジュールが変更され、高リスクAIシステムに関する規定の適用は、附属書III(Annex III)に掲げる高リスクAIシステムについて2027年12月2日、製品安全法制との関係で高リスクに分類されるAIシステム(附属書I関係)について2028年8月2日に延期されています。GPAIモデル規制の適用・執行の時期は、この変更の対象になっていません。

実践規範への署名状況

GPAIモデル提供者が義務の遵守を示すための任意の行動規範である汎用目的AI実践規範には、欧州委員会が公表する署名者一覧(2026年7月31日更新時点)によれば、OpenAI、Google、Microsoft、Amazon、Anthropic、IBM、Mistral AI、Cohere など21社が署名しています。

対応主な提供者
署名OpenAI・Google・Microsoft・Amazon・Anthropic・Mistral AI・IBM ほか
部分署名xAI(安全・セキュリティ章のみ)
不署名Meta
表1:実践規範への主要提供者の対応(欧州委員会公表の署名者一覧(2026年7月31日更新時点)をもとに当事務所作成)

xAIは3章のうち安全・セキュリティの章のみに署名しており、透明性・著作権に関する義務の遵守は別の方法で示す必要があります。また、Metaは2025年7月に、規範が法的不確実性をもたらしAI Actの範囲を超える措置を含むとして署名しない方針を表明したと報じられています(CNBC・2025年7月18日)。なお、Metaは2026年7月28日、第50条(AI生成コンテンツの透明性)に関する別の実践規範であるCode of Practice on Transparency of AI-generated Contentへの署名を表明していますが(Meta発表)、本記事で扱うGPAI実践規範には署名していません。

ここで注意が必要なのは、実践規範への署名とAI Act上の義務は別の問題だという点です。署名はあくまで任意であり、署名しない提供者にも第53条以下の義務は等しく適用されます。実際、後述の調査では、規範に署名していないMetaのモデルについても学習データ要約の公表が確認されています。

学習データ要約の公表状況

第53条第1項(d)は、GPAIモデル提供者に対し、モデルの学習に用いたコンテンツの「十分に詳細な要約」を、欧州委員会のテンプレート(2025年7月24日公表)に従って公表することを求めています。この義務は2025年8月2日以降に市場投入される新しいモデルが対象で、それより前から提供されている既存モデルには2027年8月2日までの経過措置があります。

公表状況を体系的に評価する取組として、AIアカウンタビリティ・ラボ(AIAL)の研究者らによる査読付き論文と、同研究を基礎とする公開トラッカーがあります。FAccT 2026で発表された査読論文が評価の対象としたのは、2026年1月12日時点で確認された5件の要約でした。その後も調査は継続されており、2026年8月時点の公開トラッカーでは39件の要約が確認される一方、公表が必要と研究者らが判断した20のモデルについては要約が確認できなかったとされています。半年あまりで評価対象が5件から39件に増えたこと自体が、この1年で各社の対応が具体化したことを示しています。

評価結果には大きな幅があります。Swiss AI InitiativeによるオープンソースモデルApertusが透明性A・有用性A+と特に高い評価を受ける一方、大手商用プロバイダーのモデルにはCやD+といった評価もみられます。

これらの調査が示すのは、「公表したかどうか」の段階から「公表内容が十分に詳細といえるか」の段階に論点が移っているということです。テンプレートの項目に沿って具体的に記載する提供者がいる一方、記載を簡潔な叙述にとどめる提供者もあり、開示の深さには明確な差が生じています。執行権限の行使が可能になった2026年8月以降は、この差がそのまま規制上のリスクの差になりえます。

実務への示唆

日本企業の多くにとって、GPAIモデルとの関わりは利用者としてのものが中心ですが、公表要件の履行が進んだことは利用者側にも意味があります。基盤モデルを選定する際、そのモデルの学習データ要約や、モデルカードなどベンダーが任意に公開する関連資料が公表されているか、どの程度具体的に記載されているかを、ベンダー評価の確認項目として使えるようになったためです。学習データの透明性は、著作権・個人情報の観点から自社サービスのリスクを見積もる際の出発点になります。

また、他社モデルを大規模にファインチューニングしてEU域内で提供する場合には、自社が提供者として扱われる可能性がある点は前記事で整理したとおりです。執行が始まった以上、該当しうる事業者は対応状況の点検を先送りしにくくなっています。

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当事務所では、AIガバナンス構築において、AI活用に関する基本方針の策定、リスクの識別・評価と対応方針の検討、利用規程・手順書の作成、運用面の担保までに対応しています。基盤モデル選定時の確認事項の整理など、海外規制の動向を踏まえた実務対応もあわせて扱います。

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