ロジットパートナーズ法律会計事務所

2025年8月20日 更新: 2026年4月3日

公益通報者保護法の改正と内部通報体制の見直し

目次

公益通報者保護法の一部を改正する法律が2025年6月4日に成立し、同月11日に公布されました(令和7年法律第62号)。令和2年改正で内部通報体制の整備が義務化されてから、初めての本格的な見直しになります。令和2年改正法の附則が施行後3年を目途とした検討を定めており、今回の改正はその検討を経たものです。

(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、附則第八条の規定は、公布の日から施行する。
出典: 公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)附則第一条

具体的な施行日は政令に委ねられ、公布の時点では未定でした。その後、施行期日を定める政令により2026年12月1日と定められています。

今回の改正は、規程の文言を差し替えれば足りる種類のものではありません。人事措置の決め方、社内調査の進め方、退職時に取り交わす書面といった運用の側に影響が及びます。

改正の4つの柱

改正は大きく4つに分かれます。

近年の事業者の公益通報への対応状況及び公益通報者の保護を巡る国内外の動向に鑑み、①事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上、②公益通報者の範囲拡大、③公益通報を阻害する要因への対処、④公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済を強化するための措置を講ずる。
出典: 消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)の概要」

②から④は、既に内部通報体制を整備している企業についても、取引関係や現在の運用に応じて見直しを要するものです。

解雇・懲戒への刑事罰と推定規定

今回の改正で最も重いのは、公益通報を理由とする解雇・懲戒に刑事罰が導入された点です。行為者には6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人には両罰規定として3,000万円以下の罰金が定められました。

あわせて、労働者に対する解雇・懲戒について、民事訴訟上の立証責任を転換する推定規定が置かれました。公益通報の日から1年以内に解雇または懲戒が行われた場合、その処分は公益通報を理由としたものと推定されます。行政機関や報道機関等への通報を事業者が後から知った場合は、知った日が起算点になります。従来は通報と不利益取扱いの因果関係を通報者側が立証する必要があり、これが救済の壁になっていました。改正後は、事業者の側が別の理由によるものだと示せなければ、公益通報を理由とする処分と認定されることになります。

影響は、通報とは無関係な人事措置にも及びます。通報者が業績不振や規律違反を理由に処分の対象となった場合、その処分が通報の前から検討されていたこと、同種の事案で同じ扱いをしてきたことを、後から示せるかどうかが問われます。人事措置の理由と検討の経緯を、判断した時点で記録に残しておくことが要点になります。

通報妨害と通報者探索の禁止

改正法は、正当な理由なく公益通報をしない旨の合意をすることを求めるなどして通報を妨げる行為を禁止し、これに当たる法律行為を無効としました(改正後の11条の2)。ここで問題になるのは秘密保持条項そのものではなく、公益通報まで禁じる趣旨と読める条項や、その条項を持ち出して通報を思いとどまらせる行為です。退職合意書や誓約書の口外禁止条項を定型で使い回している場合は、法令に基づく公益通報や行政機関への申告が適用対象から外れているかを確認しておく必要があります。

また、正当な理由なく公益通報者を特定することを目的とする行為も禁止されます(改正後の11条の3)。ここで分かれるのは、調査そのものを目的とした情報収集と、通報者の特定それ自体を目的とした探索です。裏づけを取るためにアクセスログを確認し、関係者に聞き取りをすること自体が禁じられるわけではありません。もっとも、通報者を特定しうる情報に触れる場面では、調査目的との関連性と手段の相当性が問われます。閲覧できる者と情報の範囲を必要最小限にとどめ、その必要性と判断の経緯を記録しておくことが望まれます。

通報者の範囲にフリーランスを追加

公益通報者の範囲に、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)にいう特定受託業務従事者が加わりました。現に業務委託関係にある者に加え、業務委託関係が終了して1年以内の者も対象になります。

実務としては、内部通報窓口の周知先と利用経路の確認が必要になります。従業員向けのイントラネットにのみ窓口を掲示している場合、委託先のフリーランスにはそもそも制度が届きません。規程上の通報対象者を広げるだけでなく、社内システムにアクセスできない相手が使える経路を用意しているかを確かめることになります。

体制整備義務の枠組み自体は変わらない

一方で、体制整備義務の基本的な構造は現行法のままです。

(事業者がとるべき措置)
第十一条 事業者は、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(次条において「公益通報対応業務」という。)に従事する者(次条において「公益通報対応業務従事者」という。)を定めなければならない。
2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。
3 常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については、第一項中「定めなければ」とあるのは「定めるように努めなければ」と、前項中「とらなければ」とあるのは「とるように努めなければ」とする。
出典: 公益通報者保護法(平成十六年法律第百二十二号)第十一条

常時使用する労働者数が300人を超える事業者に従事者の指定と体制整備が義務づけられ、300人以下は努力義務にとどまるという線引きは維持されます。改正で加わったのは、体制整備義務の内容として労働者等への周知を条文上明示したこと(改正後の11条2項)、および行政の監督権限を強化したことです。従事者の指定義務に違反する事業者に対しては、従来の報告徴収・助言・指導・勧告に加えて、立入検査と命令が新設されました。

体制整備義務の対象事業者は広がりませんが、整備した体制が実際に機能しているかを行政が確かめる手段は増えました。規程が存在するかどうかではなく、周知の実態と運用の記録が問われます。

施行までに確認すること

  • 内部通報規程および窓口の利用対象に、特定受託業務従事者と業務委託関係の終了後1年以内の者が含まれているか
  • 退職合意書・誓約書の秘密保持条項が、通報を妨げる内容になっていないか
  • 社内調査の手順に、通報者の特定を目的としない旨と情報アクセスの限定が定められているか
  • 通報者に対する人事措置の理由と検討経緯を、判断した時点で記録する運用があるか
  • 通報窓口の周知が、従業員以外にも届く方法で行われているか

いずれも内部通報規程の条文だけでは完結せず、退職時に用いる書式、社内調査の手順、人事の決裁プロセスにまたがります。所管する部署が分かれるため、現状の把握から改定の完了までには相応の期間を見込む必要があります。

※本記事は、改正法、施行期日を定める政令および改正後の法定指針・指針の解説に基づく整理です。必要となる対応は事業者の規模や取引関係によって異なるため、実際の検討では最新の資料をご確認ください。

ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス

当事務所では、内部統制構築において、内部通報制度の設計・見直し、通報受付から調査・是正までの手順の整備、運用状況の点検に対応しています。内部通報規程の改定や、退職合意書・誓約書などの書式の見直しもあわせて扱います(規程・ポリシー整備)。

改正法の適用範囲や個別の措置の当否についても、ご相談いただけます(法務コンサルティング)。

2026.4.3 更新: 施行日が政令により2026年12月1日と定められたこと、2026年3月31日に改正後の法定指針および指針の解説が公表されたことを反映しました。

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