ロジットパートナーズ法律会計事務所

2026年6月30日

税務上の事前照会と文書回答手続

目次

取引の税務上の取扱いが、法令や通達を読んでもはっきりしないことがあります。前例のない仕組みを組んだ場合や、条文がその取引を想定していない場合には、解釈の当否を確かめられないまま申告期限が来ることもあります。

国税局は、申告期限前の照会に対して文書で回答し、その照会と回答の内容を公表する手続を設けています。根拠は法令ではなく、国税庁長官が発した事前照会に対する文書回答の事務処理手続等について(平成14年6月28日付課審1-14ほか8課共同。最終改正 令和8年6月26日付課審1-53)という事務運営指針で、納税者サービスの一環という位置づけです。

参考記事: 産業競争力強化法による規制の事前確認と特例(2024年6月11日)

手続の枠組み

手続は2つに分かれます。納税者が自ら行った取引、または将来行う予定の取引について照会する個別文書回答手続と、同業者団体等が傘下の構成事業者に共通する取引について照会する一般文書回答手続(平成16年2月17日付課審1-3ほか8課共同)です。企業が自社の取引について使うのは前者になります。

照会文書は、様式に必要事項を記載し、関係資料を添えて、納税地を所轄する税務署の担当部門(法人税であれば法人課税部門)に提出します。e-Taxでも提出できます。国税局の調査部(課)が所管する法人の法人税・消費税については、その国税局の調査審理課等が窓口になります。受付は署でも、内容の審査と回答は国税局の審理課(審理官)または酒税課が行います。

回答は、照会文書に書かれた照会者の見解に対して、「貴見のとおりで差し支えありません。」または「貴見のとおり取り扱われるとは限りません。」と答える形で行われます。照会文書の提出後、回答前に同様の照会に対する取扱いが明らかになった場合には、その資料を添えて同様の取扱いとなる旨を回答する形もあります。いずれにしても、照会者自身の見解とその理由を示して当否を確認するのが基本になります。

回答は、受付窓口で受け付けた日から原則3か月以内の極力早期に行うよう努めるとされています。追加資料の提出や照会文書の補正に要した期間は、この3か月に算入されません。受付からおおむね1か月以内(追加資料の提出等に要した期間を除きます)には、その時点での文書回答の可能性と処理時期の見通しが口頭で示されます。照会した取引の申告期限(源泉徴収等の場合は納期限)が過ぎると、口頭回答も含めて回答は行われません。回答がないことを理由に申告期限が延びることもないため、資料の準備と審査に要する期間を見込んで逆算することになります。

対象とならない照会

この手続は、取扱いが明らかでない論点のうち、提出された資料だけで判断できるものに限られています。要件を裏返すと、対象から外れるものは次のとおりです。

対象外内容
取扱いが明らか法令・法令解釈通達・過去に公表された質疑事例等で取扱いが明らかなもの
財産の評価個々の財産の評価や取引等価額の算定・妥当性の判断(役員の過大報酬等の判定など)
選択肢がある照会の前提とする事実関係に選択肢があるもの
事実認定が必要提出資料だけでは事実関係を判断できず、実地確認や関係者への照会を要するもの
他法令の解釈国税に関する法令以外の法令等の解釈を必要とするもの
法令に抵触照会に係る取引等が法令等に抵触し、又は抵触するおそれがあるもの
紛争中の事案同様の事案について税務調査中・不服申立て中・税務訴訟中であるもの
申告期限後申告期限(源泉徴収等の場合は納期限)が到来した後の照会
表1:文書回答手続の対象とならない主なもの(国税庁の事務運営指針及び手続案内をもとに当事務所作成)

このほか、調査等の手続、徴収手続、酒類等の製造免許・販売業免許に関係する照会も対象外です。収用等の特例の適用に関する事前協議や国等に対する寄附金の事前確認のように、別途手続が定められているものは、それぞれの手続によります。将来行う予定の取引についての照会であっても、既に申告期限等が到来している取引と同様の取引に関するものは、対象になりません。

法令解釈通達や質疑応答事例で既に答えの出ている論点は対象にならないため、照会を検討する前に公表資料を当たることになります。予定している取引についての照会でも、「A案とB案のどちらで進めるべきか」という形は、前提とする事実関係に選択肢があるため対象になりません。組織再編やM&Aの設計段階で複数のスキームを並べて当否を尋ねることはできず、前提となる事実関係を固めてから照会することになります。株式や不動産の価額そのものの妥当性も対象外です。事実認定を要するものには、同族会社等の行為又は計算の否認の認定を必要とするものも含まれます。

なお、事務運営指針は、文書回答を行わない場合であっても、口頭による回答が可能な事前照会については、内容を審査して口頭で回答するよう配意することとしています。

公表を前提とする手続

照会と回答の内容は、原則として回答後2か月以内に公表されます。公表への同意が要件になっているため、公表を避けて回答だけを得ることはできません。同意する内容には、公表について取引等関係者の了解を得ること、公表に伴って問題が生じた場合に照会者の責任で関係者間で解決することも含まれます。公表されたものは国税庁ホームページの文書回答事例に税目別に掲載され、近年も業績連動型株式報酬や技術研究組合の組織変更といった事案が公開されています。

照会者名は、照会者から申出がない限り公表されません。取引等関係者の名称も、事案の性格上明らかにする必要がある場合を除き、XやYと匿名化されます。伏せられるのは名称だけではありません。情報公開法上の不開示情報や国税に関する法律上の守秘義務に抵触すると考えられる部分も、被覆するなどして公表されます。照会文書に書いた内容がそのまま公表されるわけではなく、公表する内容は担当部署に相談することとされています。もっとも、取引の仕組みと当局の判断は残るため、新しい商品や取引の枠組みでは、どこまでが世に出るかを確認したうえで照会の範囲を決めることになります。新たな金融商品の内容が販売前に公表されると支障が生じるといった相当の理由があるときは、1年を超えない期間について公表を延期する申出が認められています。同業者団体等からの照会では扱いが異なり、照会者名も公表され、延期措置もありません。

回答の効力

文書回答は納税者サービスとして行われるもので、照会者の申告内容等を拘束しません。回答内容に不服がある場合でも、不服申立ての対象にはなりません。回答は、照会に示された事実関係を前提に、その時点の法令に則して示された国税局の見解であり、実際の事実が照会と異なっていたり、新たな事実が生じたりすれば、回答と異なる課税関係が生じます。回答文書自体にも、その旨が記載されます。

一方で事務運営指針は、回答内容を所轄の署や関係主務課等に通知・回付することとし、事前照会に係る申告等について回答内容と異なる課税処理を行おうとする場合には、その部署があらかじめ国税局の審理課・主務課等と協議することとしています。文書回答の実質的な意義は、法的な拘束力ではなく、この運用にあります。反面、課税判断に関わる事実関係が照会と異なっていれば、回答をそのまま適用することはできません。回答後に法令が改正された場合も同様です。

照会文書に記載する事項

照会文書には、法令解釈・適用上の疑義の要約と照会者の求める見解、取引等関係者の名称(全て実名)と権利義務関係を含む具体的な事実関係、その見解になることの理由、申告期限または納期限、関係する法令条項を記載します。理由には、根拠となる事例、裁判例、学説、既に公表されている弁護士・税理士・公認会計士等の見解を含めることとされています。これに取引に関する全ての契約書等の関係書類と、チェックシートを添えます。チェックシートの提出がないと、回答が行われないことがあります。

準備する中身は、税務意見書を作成する作業とほとんど変わりません。事実関係を確定させ、条文と通達に当たり、裁判例や公表事例で自社の結論を支えるところまで進めて、初めて照会文書の形になります。提出した書類は文書回答の有無を問わず返却されない点、代理人を通じて照会する場合はその代理人が税理士法第2条に規定する税理士業務を行うことができる者に限られる点も、あらかじめ確認しておくところです。

ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス

当事務所では、税務意見書において、取引の税務上の取扱いについての見解と、その根拠となる条文・通達・裁判例・公表事例の整理を行っています。実際には、この整理で判断がつく場面がほとんどで、文書回答手続まで進むのは、照会しようとする論点が手続の要件を満たし、申告期限までに審査の期間を確保でき、照会と回答の内容が公表されても支障がない場合に限られます。その見極めと、照会文書および添付資料の作成を扱います。

回答を得た後の申告までの処理や、その後の事業年度における継続的な対応も、あわせて扱います(税務顧問・申告)。取引の仕組みそのものが法令上の規制に触れるかどうかが問題になる場面では、税務と切り離さずに検討する必要があります(法務コンサルティング)。

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