ロジットパートナーズ法律会計事務所

2026年9月25日

M&Aにおける税務デューデリジェンス

目次

M&Aのデューデリジェンスのうち、税務デューデリジェンス(税務DD)は、過去の申告に潜む追徴リスクの把握と、取引スキームの税務上の帰結の検討という二つの役割を担います。決算書に表れない税務リスクも対象会社に残るため、株式譲渡では買い手が株主としてその経済的影響を負い、リスクは本税だけでなく加算税と延滞税を伴って顕在化します。

本記事では、当事務所が提供する税務DDサービスの概要を、調査の設計から成果物、株式譲渡契約への反映までの流れに沿って紹介します。

参考記事: M&Aにおける財務デューデリジェンス(2026年8月13日)/M&Aにおける法務デューデリジェンス(2024年9月2日)

税務DDとは

目的

税務DDの目的は二つに整理できます。一つは、対象会社の過去の申告に誤りがあり、買収後の税務調査で追徴課税を受けるリスクを把握することです。もう一つは、把握した対象会社の税務ポジション(繰越欠損金の有無、資産の含み損益、過去の組織再編の状況など)をもとに、取引スキームの税務上の帰結を検討することです。前者は過去の検証、後者は将来の設計を支える作業であり、税務DDはこの両方を担います。

申告の誤りは買収後の税務調査で発覚しうるため、買収時点で指摘を受けていなくても、将来の追徴を見込んで評価しなければなりません。しかも追徴には本税に加えて加算税と延滞税が伴います。仮装隠蔽があったと判断されれば、原則として過少申告の場合で35%、無申告の場合で40%の重加算税が課され(国税通則法第68条)、加算税と延滞税はいずれも損金に算入されません。

なお、本記事では、買い手の依頼により実施する税務DD(バイサイドDD)を前提に、対象会社が国内の非上場会社である場合を中心に説明します。

税務調査との違い

税務DDは、課税庁が行う税務調査とも、顧問税理士が行う申告書の作成とも性格が異なります。申告書の作成が適切な申告を行うためのコンプライアンス業務であるのに対し、税務DDは適切な申告が行われているかを短期間で評価する業務です。税務調査には質問検査権の裏付けがありますが、税務DDは売り手から提供された申告書・帳簿とヒアリングを前提に行う調査であり、誤りが存在しないことを保証するものではありません。

申告書に記載された事項の検算と異なり、記載されていない加算漏れの有無(網羅性)は、申告書以外の資料と質問から推し量るほかありません。限られた期間と資料で行う税務DDでは、この検討に完全を期すことはできないため、報告書には確認できた事項と確認できなかった事項を明記し、確認できなかった部分は契約上の手当てに委ねます。

財務DD・法務DDとの関係

中小企業のM&Aでは、税務DDを財務DDの一環として実施したり、財務DDと同じチームが担当したりする場合があります。中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)も、税務DDを「財務DD等に一部含まれることがある」ものとして整理しています。申告書は会計処理に申告調整を加えて作られるため、対象会社の事業と会計処理の理解を財務DDと共有できることは、税務DDの精度に直結します。

領域の境目に落ちる論点については、M&Aにおける財務デューデリジェンスで述べたとおりです。未払租税公課の網羅性や税効果は財務DDとの接点になり、税務リスクの金額影響は実態純資産やネットデットの調整として財務DDの側に反映されます。株式の過去の異動履歴については、法務DDが移転の有効性を、税務DDが譲渡価額の妥当性やみなし贈与の課税関係を検討します。契約書の印紙税も、契約の洗い出しを行う法務DDと連携する領域です。同じ事実を別の観点から調べるため、どちらで扱うかを決めておかないと、検討の漏れや金額の二重計上が生じます。

同ガイドラインは、中小M&Aの実務では本格的なDDを行わず、数年分の税務申告書の確認と経営者へのヒアリングだけで終えることもあると述べています。申告書の確認は税務DDの入口そのものですが、申告書に載っている数字の検算と、載っていない論点の発見とでは、必要な視点が異なります。後述する4つの視点は、この違いを埋めるためのものです。

調査の設計

調査の範囲とスキーム

調査の範囲は買収スキームによって異なり、株式譲渡(ストックディール)では対象会社の過去の税務リスクが買収後も対象会社に残るため、網羅的な調査が求められます。合併も同様で、被合併法人の納税義務は合併法人に包括的に承継されます(国税通則法第6条)。

これに対し事業譲渡(アセットディール)では、売り手の税務リスクは原則として売り手に残ります。ただし、売り手と買い手が生計を一にする親族や被支配会社などの特殊関係者で、買い手が同一または類似の事業を営む場合などには例外があります。売り手がその事業に係る国税を滞納し、滞納処分を執行しても徴収不足が見込まれるときは、買い手は譲受財産の価額を限度として第二次納税義務を負います(国税徴収法第38条。譲渡が法定納期限の1年以上前であれば適用されません)。また、法定納期限の1年前の日以後にされた無償または著しく低い対価による譲渡が徴収不足の原因となった場合にも、譲受人は第二次納税義務を負います。その限度は現に存する利益であり、譲受人が特殊関係者であれば受けた利益の全部です(同法第39条)。分割型分割により事業を承継した法人は、承継した財産の価額を限度として、分割の日前に納税義務が成立した分割法人の国税について連帯納付の責任を負います(国税通則法第9条の3)。事業譲渡という理由だけで税務DDを不要と判断せず、これらの規定に該当しないことを確認したうえで範囲を絞ります。

対象期間

税務DDで何期分をさかのぼるかは、更正・決定の期間制限(除斥期間)から逆算します。法人税の更正・決定は原則として法定申告期限から5年を経過する日まで行うことができ、偽りその他不正の行為により税額を免れた場合には7年、欠損金額を増減させる更正は10年です(国税通則法第70条)。したがって、調査対象は直近5期を基本とし、重加算税を課された履歴があるなど不正が疑われる事情があれば7期まで、繰越欠損金を前提に価格を組み立てる場合は欠損金の発生年度まで、検証の範囲を広げることを検討します。

もっとも、5期すべてを同じ密度で調べるわけではありません。直近の税務調査で対象となった年度については、調査で扱われた税目と論点を確認したうえで相対的に重点を下げ、調査が入っていない年度(いわゆるオープンイヤー)に重点を置きます。対象会社が設立以来一度も税務調査を受けていない場合は、税務処理全般の適否が検証されていないため、根本的な誤りが残っている可能性を織り込んで調査を設計します。

対象税目

法人税を主な対象とし、所得に連動する部分が大きい住民税・事業税についても、均等割や事務所等の所在地による分割基準、外形標準課税といった地方税独自の事項を確認します。消費税・源泉所得税・印紙税は、過去の税務調査の履歴と事業の内容から、税目ごとに調査の深度を決めます。金融業や不動産業のように課税売上割合が低い業種では消費税の重要性が高く、海外への支払がある会社では源泉所得税の重要性が高くなります。

税務リスクを識別する4つの視点

申告書に載っていない加算漏れを見つけるには、記載事項の検算だけでは足りず、対象会社を別の角度から分析することが欠かせません。当事務所では、次の4つの視点を組み合わせて対象会社を多面的に分析し、税務リスクを識別しています。

  • ビジネスの視点は、対象会社の経常的な取引を類型ごとに把握し、それぞれの税務上の取扱いと会計処理を照合して、申告調整の漏れを探すものです。非経常的な取引は個別に、その取引を行った理由から検討します。
  • 税務調査の視点は、直近の調査で指摘された事項とその後の是正状況、指摘には至らなかったが議論された事項、指導事項を確認するものです。同じ誤りが継続していれば次の調査での指摘は避けにくく、重加算税の履歴があれば現在も仮装隠蔽がないかという前提で調査を進めます。
  • 内部統制の視点は、税務リスクを識別して申告に反映する体制が対象会社にあるかを評価するものです。稟議書や議事録の整備状況、経理担当者の税務知識、顧問税理士の関与範囲(申告書を全て作成しているか、レビューのみか)を確認し、体制が良好であれば調査の深度を調整します。
  • 申告書の視点は、別表を出発点に課税所得・申告調整・税額控除・繰越欠損金を個別に検証するものです。別表五(二)に附帯税の記載があれば修正申告や納付の遅れがあったことが、増資がないのに資本金等の額が動いていれば組織再編や資本取引があったことが読み取れます。

税目別の主な検討事項

対象会社の税務プロファイル

税目別の検討に入る前に、申告書、修正申告書・更正通知書、納税証明書、税務調査に関する資料から、期限内申告の状況、修正申告や更正の履歴、滞納の有無を把握します。あわせて、税理士法第33条の2の書面添付の有無、繰越欠損金の発生年度別のスケジュール、適用中の優遇税制の要件充足も確認します。

過去の課税所得と申告調整項目の推移を分析し、特定の年度だけ交際費や寄附金の加算額が突出していれば、その内容を確認します。過去に合併・分割・増減資があれば、税務上の資本金等の額と利益積立金額が正しく計算されているかを確かめます。自己株式の取得を組み込んだスキームでは、これらの計算がみなし配当の額と源泉徴収義務に直結するためです。

法人税

法人税では、申告調整が網羅的に行われているかを、別表四・別表五(一)を中心に検討します。主な検討事項は次のとおりです。

  • 役員給与について、定期同額給与や事前確定届出給与の要件を満たしているか、役員退職給与が過大でないか、オーナー親族がみなし役員に当たらないか
  • 関連当事者との取引に、低廉譲渡・高価買入・無利息貸付など、寄附金と認定されうるものがないか
  • 修繕費として処理した支出のうちに、資本的支出に当たるものが含まれていないか
  • 貸倒損失について、債権の切捨て・全額回収不能・取引停止後の一定期間経過といった区分ごとの要件と計上時期を満たしているか
  • 売上の計上時期が適切か、期末近辺の取引に期間帰属の誤りがないか
  • 100%グループ内の取引について、グループ法人税制の処理が適切に行われているか
  • 過去の組織再編について、適格要件の判定と、繰越欠損金や特定資産譲渡等損失の制限の検討が行われているか

あわせて、現金売上の除外や架空人件費など、仮装隠蔽を疑わせる処理の兆候がないかを調べます。仮装隠蔽があれば金額の多寡にかかわらず、重加算税と7年の除斥期間によってリスクが大きく増すためです。

過去の組織再編では、適格要件の判定に加えて、適格であるがゆえに課される制限を確認します。100%グループ内の再編は、適格要件の充足だけを確かめて実行され、制限の検討を欠いていることがあります。適格であっても、グループ内再編には繰越欠損金の引継ぎ制限や特定資産譲渡等損失の損金算入制限が課されることがあります(法人税法第57条第3項、第62条の7)。制限を受けないのは、合併等の事業年度開始の日の5年前の日から支配関係が継続している場合と、みなし共同事業要件を満たす場合です。5年前の日より後に設立された法人は設立日からの継続で判定しますが、設立後に他の法人との適格合併等で欠損金や資産を引き継いでいると、この設立日基準は使えません(法人税法施行令第112条第4項)。再編時にこの検討が行われていなければ、その後の損失計上が否認されるリスクを税務DDで洗い出す必要があります。

消費税

消費税は、取引ごとの判定の積み重ねで税額が決まるため、判定の誤りがそのまま追徴に結びつく税目です。課税・非課税・不課税の区分が適切か、課税売上割合の計算に誤りがないかを確認するほか、仕入税額控除について帳簿と請求書の保存要件が満たされているかを検討します。簡易課税を適用している場合は、事業区分の判定が妥当かも論点になります。

免税事業者からの仕入れについては、経過措置により仕入税額の一定割合を控除できるため、インボイス制度への対応状況も確認事項です。令和8年度税制改正により控除割合の引下げスケジュールが変更され、2026年10月からは7割となります(令和8年度税制改正大綱の実務ポイント)。免税事業者との取引が多い対象会社では、買収後の税負担の見通しに影響するため、取引先の登録状況とあわせて確認します。

源泉所得税

源泉所得税は、課税所得の有無にかかわらず源泉徴収義務が生じうるうえ、支払の都度の判断に委ねられるため、非経常的な支払や海外への支払で処理の誤りが生じやすい領域です。給与・賞与・退職金の源泉徴収に加えて、社宅の貸与や渡切交際費といった現物給与の処理、税理士や弁護士等への報酬・料金の源泉徴収漏れを確認します。

非居住者や外国法人への支払がある場合は、使用料・利子・配当等に係る源泉徴収の実施状況と、租税条約に基づく届出書の提出状況を調べます。海外ブランドのライセンス料のように毎年継続して支払われるものは、一度徴収漏れが始まると年数分が累積するため、支払内容と支払先ごとに徴収の要否を確かめます。

印紙税

印紙税は、継続的取引の基本契約書や請負契約書を中心に、貼付の状況を確認します。一件あたりの金額は大きくないものの、納付漏れには本来の印紙税額の3倍に相当する過怠税が課され(調査前に自主的に申し出た場合は1.1倍。印紙税法第20条)、過怠税は損金に算入されません。課税文書を大量に扱う業種では、総額として無視できない金額になります。

地方税

住民税・事業税は法人税の所得計算の修正と連動する部分が大きい一方、地方税独自の事項として、事務所等の所在地と従業者数による分割基準、住民税の均等割、事業税の外形標準課税の適用判定と付加価値割・資本割の計算、償却資産税や事業所税の申告状況を確認します。不動産を多く保有する会社では、後述するスキームの比較において、登録免許税・不動産取得税の負担も検討対象です。

オーナー会社に特有の論点

中小企業のM&Aでは、会社と経営者個人の税務が切り離せない場合があります。役員貸付金の認定利息、役員借入金に付された利率が過大でないか、オーナーが所有する不動産の賃料が適正かどうかに加えて、会社資産と個人資産の区分があいまいでないかを確認します。役員借入金をクロージング前に債権放棄で整理する場合は、対象会社に生じる債務免除益を繰越欠損金で吸収できるかが論点です。債権放棄による整理の方法は、ネットデットの扱いとあわせて財務DDと連携して検討します。役員個人の遊興費を会社が交際費として負担していたり、役員が私的に使う資産を会社名義で取得していたりする場合は、役員に対する経済的利益の供与として、役員給与への該当性(定期同額でなければ損金不算入)と役員側の給与課税が検討対象です。

事業規模に比べてグループ会社の数が多い場合は、各社の設立理由と取引の実態を確かめます。資本金1億円以下の法人を複数持つことで交際費の損金算入枠や軽減税率を各社で使う、決算月をずらして課税を繰り延べるといった節税を意図している場合があるためです。

株式についても、名義株の有無や過去の株式の移動が適正な価額で行われていたかを調べます。過去の移動時にみなし贈与の問題が生じている場合、対象会社ではなく株主個人の課税問題ですが、株主構成の是正が取引の前提になることがあるため、税務DDの段階で把握します。

なお、オーナーが株式譲渡と同時に退任する際に、役員退職慰労金を支給することがあります。株式の譲渡所得より退職所得のほうが手取りが多くなる場合があるためですが、不相当に高額な部分の損金不算入リスクは対象会社に帰属するため、金額の算定根拠の確認が欠かせません。退任後も顧問や嘱託として対象会社への関与を続ける場合は、実質的に退職したと同様の事情にあるかが問われます。分掌変更の場合には、常勤から非常勤への変更や給与のおおむね50%以上の減少が例示されていますが、代表権を持つ者や経営上主要な地位を占め続ける者は除かれます(法人税基本通達9-2-32)。退任後の関与についても、肩書や報酬額だけでなく、職務と権限の実態を確認します。また、クロージングと同時に支給する退職金は売り手側が支給事務を行うことがあり、源泉徴収が漏れると事後の徴収が難しくなるため、支給の手順まで確認の対象にします。

ストラクチャーに関わる検討

繰越欠損金

対象会社に繰越欠損金がある場合、買収後の利用可否が価格に直結するため、発生要因・発生時期・利用制限の三つを検討します。

発生要因については、営業赤字から生じた欠損金であれば問題は少ない一方、関連当事者への資産売却損や子会社支援の損失が欠損金の主要部分を占めている場合は、寄附金認定により欠損金そのものが減額されるリスクが検討対象です。欠損金を増減させる更正は10年間可能であるため、発生年度が古くても安全とはいえません。

発生時期によって繰越期間は異なり、原則10年(2018年4月1日前に開始した事業年度に生じたものは9年)で、中小法人等を除き各事業年度の所得の50%までしか控除できません(法人税法第57条第1項)。期限までに控除できない欠損金に節税効果はないため、将来の課税所得の見込みと将来減算一時差異の実現時期をあわせて、実際に使える額を見積もります。

利用制限については、単純な株式譲渡であっても、休眠会社や事業を廃止する会社を買収する場合には、欠損等法人の規定が問題になります。支配日から5年以内に事業の開始や、旧事業の廃止と多額の資金借入れなどの事由に該当すると、支配日前の欠損金が使えなくなります(法人税法第57条の2)。また、買収後に買い手やその子会社と合併する場合、適格合併であっても引き継げる欠損金が制限されることがあります(同法第57条第3項)。制限を受けないのは、合併事業年度開始の日の5年前の日(または前述の設立日基準)から支配関係が継続している場合か、みなし共同事業要件を満たす場合です。買収後に合併して欠損金を使う計画であれば、欠損金の利用制限を前提に価格を組み立てます。

取得スキームの税務比較

株式譲渡と事業譲渡では、税務上の帰結が大きく異なります。事業譲渡では、対価が移転を受けた資産・負債の時価純資産価額を超える部分が資産調整勘定(税務上ののれん)となり、5年間で損金に算入できます(法人税法第62条の8)。逆に対価が下回れば、差額負債調整勘定として5年間で益金に算入されます。一方で、事業譲渡は消費税の課税取引であり(営業権相当額も課税資産に含まれます)、不動産を含む場合には登録免許税と不動産取得税が生じます。会社分割と株式譲渡を組み合わせる方法では、会社分割による資産の移転は消費税の不課税取引、株式の譲渡は非課税取引となり、非適格分割として資産調整勘定を認識できる場合があります。

株式譲渡では、対象会社の税務上の地位が株式の移転によって変わらないため、繰越欠損金を引き続き利用できる可能性がある反面、過去の申告に起因するリスクも対象会社に残ったまま買い手が引き受けることになります。粉飾決算の疑いがあるなど税務リスクの見通しが立たない対象会社では、租税債務を引き継がない事業譲渡を最初から選択することもあります。

どのスキームが有利かは、対象会社の資産構成、繰越欠損金の有無、売り手側の課税関係によって変わります。税務DDで把握した含み損益や欠損金の状況をもとに、各スキームの税務上の帰結を比較します。

複数の取引を組み合わせる場合

株式譲渡と株式交換のように複数の取引を組み合わせる場合、課税関係は原則として個々の契約ごとに判定されます。一連の取引を一体として見れば適正な対価であっても、個々の取引が低額譲受けと評価されることがあります。

適正な価額が約25億円の対象会社株式を、売り手側が設立した受け皿会社がまず12億1,000万円で譲り受け、次に上場会社がその受け皿会社を株式交換で完全子会社にして、売り手側に約13億円相当の上場会社株式を交付しました。売り手側が受け取った対価は、現金と株式を合わせて約25億円であり、スキーム全体では適正な価額に見合っています。しかし東京地裁は、株式交換で交付された株式は当事者も対象も異なる別の契約の対価であり、株式譲渡の対価に含めることはできないとしました。その結果、12億1,000万円と適正な価額との差額約13億円を受け皿会社の受贈益と認定した更正処分は適法と判断されています(東京地判令和3年10月29日・税務訴訟資料271号順号13626。控訴審・上告審でも維持)。スキーム全体の対価が妥当でも、個々の取引の対価が妥当とは限らないため、取引ごとに課税関係を確かめておかなければなりません。

税務DDの成果物

調査の結果は、税務デューデリジェンス報告書として提供します。当事務所の標準的な報告書は、次の構成によります(案件の規模と目的に応じて、重要な論点に絞った簡易版からフルスコープの報告書まで、調査範囲と粒度を設計します)。

  1. エグゼクティブサマリー(発見事項の要旨と総評)
  2. 調査の前提(目的と範囲、対象税目・対象期間、留意事項、推奨事項の類型)
  3. 対象会社の税務プロファイル(申告・納税の状況、税務調査の履歴、繰越欠損金の状況、適用中の優遇税制)
  4. 税目別の検討(法人税、消費税、源泉所得税、地方税・印紙税)
  5. オーナー・関連個人の税務(役員・株主との金銭貸借、関連当事者取引、過去の株式異動)
  6. ストラクチャー関連税務(繰越欠損金の利用制限、取得スキームの税務比較、クロージング前後の税務手続)
  7. ディールへの示唆(価格への反映、SPAにおける手当て、クロージング前の是正と買収後の対応)

発見事項は、財務DDと同じ3つに区分し、それぞれに金額影響(本税に加算税・延滞税を加えた概算。幅をもった見積りを含む)と顕在化の可能性を付します。

区分典型例
価格に織り込む金額と顕在化の可能性がともに高い追徴リスク、繰越欠損金の実効価値
契約で手当てする金額や可能性の判断が難しいが影響が大きいリスク、クロージング前に是正させる事項
取引の再考多額の滞納や仮装隠蔽の疑いなど、買収そのものを見直すべき事項
表1:税務DDにおける発見事項の3区分(当事務所作成)

区分ごとの手当ては、価格反映、事前解消、前提条件、表明保証、特別補償、買収後の対応の6つの類型で示します。税務で特徴的な事前解消は、クロージング前に売り手に修正申告や届出の整備を求め、その完了をクロージングの前提条件にする方法です。調査の通知前に自主的に修正申告すれば過少申告加算税は課されず、通知後でも更正を予知する前であれば軽減されます(国税通則法第65条)。価格調整や補償で受け止めるより、売り手に是正させたほうが双方の負担が小さい場合があります。買収後の対応には、誤った処理の是正、申告体制の整備、買い手側の税務体制への統合が含まれます。

税務DDは限られた情報のもとで行うため、リスクの金額を一点で示せない場合があります。買い手が受け入れ可能な範囲か、価格に反映すべきかを判断するには金額の目安が不可欠であるため、可能性として考えられる金額の範囲を示し、定性的な評価とあわせて報告します。

税務DDと株式譲渡契約(SPA)

過去の申告に起因する税務リスクは、税務調査が行われるまで顕在化せず、金額も確定しないため、契約上の手当てが特に重要です。

実務では、税務に関する表明保証に加えて、特定された税務リスクについて特別補償を設けることがあります。表明保証の一般的な補償期間が切れた後に更正が行われれば、買い手は補償を受けられないため、補償期間は前述の除斥期間を踏まえて設計します。税務については他の項目より長い補償期間を設定するかどうかが交渉の対象になり、買収価格に繰越欠損金の節税効果を織り込んでいる場合は、欠損金の額そのものを表明保証の対象とすることも検討します。

また、買収直後の事業年度の申告では、売り手が株主であった期間の取引について、対象会社の税務実務に通じていた担当者の協力が必要になることがあります。担当者がM&Aを機に退職する場合には、申告に必要な協力を売り手に義務付けておくことも、契約で手当てすべき事項の一つです。

ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス

当事務所では、M&A支援において、財務DDと並行した税務DDに対応しています。当事務所には弁護士・公認会計士・税理士の資格を持つメンバーが在籍しており、税務・財務・法務の調査を分断なく設計できるため、株式の異動履歴や関連当事者との取引のように領域をまたぐ論点も、見落としを抑えて検討できます。

買収後の申告体制の整備や顧問税理士の交代に伴う対応(税務顧問・申告)、組織再編の適格要件のように個別の論点について見解を示す必要がある場合の意見書の作成(税務意見書)も、あわせて扱います。

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