ロジットパートナーズ法律会計事務所

2024年11月12日 更新: 2026年9月15日

フリーランス法の施行と発注側の点検事項

目次

2024年11月1日、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)が施行されました。従業員を使用する企業がフリーランスに業務を委託する場合、取引条件の明示、支払期日、就業環境の整備について新たな義務を負うことになります。下請法と異なり資本金による線引きがないため、規模の小さい会社でも、従業員を使用しない個人に業務を外注していれば対象になります。

なお、本記事の解釈は、公正取引委員会と厚生労働省が2024年5月31日に公表した「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(以下「考え方」)と、同日に告示された就業環境の整備に関する指針に基づきます。

適用対象の判定

保護の対象となる「特定受託事業者」は、従業員を使用しない個人か、代表者1人のほかに役員がなく従業員もいない法人です(法2条1項)。「従業員を使用」とは、週の所定労働時間が20時間以上で、かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇うことを指します。そのため、短時間・短期間のアルバイトだけであれば、従業員を使用しているとは扱われません(考え方 第1部1)。会社員が副業として事業者から業務を受けている場合も、事業として行っていれば、その取引では特定受託事業者に該当します。

発注者が従業員を使用するか、役員が2人以上いる法人であれば「特定業務委託事業者」として、本稿で扱う義務のすべてを負います(法2条6項)。発注者自身もフリーランスである場合は、取引条件の明示義務(3条)だけが課されます。

対象となる「業務委託」は、事業者が事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成、役務の提供を委託することで、業種の限定はありません(法2条3項)。下請法の役務提供委託は発注者が他者に提供する役務に限られ、自社で使う役務は対象外ですが、本法では社内の研修講師の委託のように自社で使う役務も対象になります。一方、消費者との取引や、物品を単に購入する売買は対象外です。契約の形式が業務委託でも、実態が労働基準法上の労働者に当たる場合は労働関係法令が適用され、本法の対象にはなりません。

義務・禁止行為対象となる発注者期間の条件
条件明示(3条)すべての発注者なし
支払期日(4条)特定業務委託事業者なし
禁止行為(5条)同上1か月以上
募集表示(12条)同上なし
相談体制(14条)同上なし
配慮義務(13条)同上6か月以上(それ未満は努力義務)
解除予告(16条)同上6か月以上
表1:義務と禁止行為の適用条件(法律・施行令をもとに当事務所作成)

「1か月以上」「6か月以上」の期間は、契約の更新によって通算した期間で判定します(法5条1項、13条1項、施行令1条・3条)。短期の契約を繰り返している場合、1本ごとではなく、更新を含む全期間が判定の対象となります。ただし、通算の対象となる更新は、当事者と業務の内容に同一性があり、前の契約の終了から次の契約までの空白が1か月未満のものに限られます(考え方 第2部第2の2)。

取引条件の明示

発注者は、業務委託をしたときは「直ちに」、取引条件を書面か電磁的方法で明示しなければなりません(法3条1項)。考え方は「直ちに」を「すぐにという意味で、一切の遅れを許さないこと」と説明しており、発注に合意した時点で条件を明示することが前提となります。業務委託の合意自体は口頭でも成立しますが、取引条件の明示を口頭だけで済ませることは認められません。

明示が必要な事項(公正取引委員会規則1条)
① 発注者と受託者の名称
② 業務委託をした日
③ 給付(業務)の内容
④ 納品日または業務を行う期日・期間
⑤ 納品場所または業務を行う場所
⑥ 検査をする場合は、検査を完了する期日
⑦ 報酬の額と支払期日
⑧ 現金以外で支払う場合は、その支払方法

電磁的方法には電子メール、チャットツール、SNSのメッセージ機能が含まれ、本文に条件を書く方法のほか、条件を記載したPDFの添付やウェブページのURLの送付も認められます。受信者を特定して送るものに限られるため、不特定の人が見るウェブページへの掲載では足りません。電磁的方法で明示した後に受託者から書面の交付を求められたときは、遅滞なく書面を交付する必要があります(法3条2項。受託者の保護に支障がない場合を除きます)。

報酬の額は具体的な金額が原則ですが、やむを得ない事情があるときは、金額が自動的に確定する算定方法の明示で足ります(規則1条3項)。発注時に内容を定められないことに正当な理由がある事項は、定められない理由と確定の予定期日を示したうえで、定まった後に直ちに明示すれば足ります(法3条1項ただし書、規則1条4項)。一定期間の取引に共通する条件を基本契約であらかじめ書面または電磁的方法で示しておけば、その共通事項は、個別の発注で基本契約によることを明らかにすれば、改めて明示することを要しません(規則3条)。

支払期日

特定業務委託事業者は、給付を受領した日から60日以内で、できる限り短い期間内に支払期日を定めなければなりません(法4条1項)。起算日は受領した日であって、検査の完了日ではありません。支払期日を定めなかったときは受領日が、60日を超えて定めたときは受領日から60日を経過する日が、支払期日とみなされます(同条2項)。支払期日は「納品後60日以内」のような幅のある定め方ではなく、具体的な日を特定して定める必要があります(考え方 第2部第1の1)。

月末締め翌月末払いのような締切制度は、月単位の締切期間の末日に役務が提供されたものとして扱う余地があります。ただし、締切期間の末日までに提供した役務に対して支払うことが受託者との協議であらかじめ合意され、その旨と報酬の額または算定方式(役務の種類・量当たりの単価をあらかじめ定めたもの)が3条通知に明確に記載されていること、連続して提供される役務が同種であることが条件です(考え方 第2部第2の1)。この条件を満たさない月払いは、個々の受領日から60日で判定されます。

元請けから受けた業務をフリーランスに再委託する場合には、再委託である旨、元委託者の名称、元委託業務の対価の支払期日の3点を明示することを条件に、元委託の支払期日から30日以内で定めることが認められます(法4条3項、規則6条)。

禁止行為

1か月以上の業務委託では、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しが禁止されます(法5条)。下請法の禁止行為とほぼ同じ構成ですが、企業側に悪意がなくても該当しやすいものが3つあります。

振込手数料と端数の差引き

考え方は、受託者の口座への振込手数料を受託者に負担させて報酬から差し引くことを「報酬の額を減ずること」の例として挙げています。例外は、業務委託の前に書面または電磁的方法で受託者が手数料を負担する合意をしており、金融機関に支払う実費の範囲内で差し引く場合に限られます(考え方 第2部第2の2)。合意なしに差し引いている会社や、実費を超える定額を差し引いている会社は、支払の設定を見直す必要があります。報酬の端数を1円以上切り捨てて支払うことも減額に当たります。

2026.1.13 更新: 公正取引委員会・厚生労働省は、取適法の施行に合わせて「考え方」を改正し(2025年10月1日)、2026年1月1日以降に業務委託した取引については、受託者との事前の合意があっても、振込手数料を報酬から差し引くことは報酬の減額に当たるとしています。上記の「合意があり実費の範囲内なら減額に当たらない」という扱いは、2025年12月31日以前に委託した取引に限られます。

知的財産権の譲渡・許諾

成果物に受託者の著作権などが発生する場合に、業務委託の目的である使用の範囲を超えて、その権利を無償で譲渡・許諾させることは、不当な経済上の利益の提供要請に該当します(考え方 第2部第2の2)。成果物の権利を発注者に帰属させる条項は一般的なもので、譲渡・許諾を給付の内容に含めるときは、その範囲を3条通知に記載し、報酬をその対価を加えて定めることが求められます(考え方 第2部第1の1)。既存の契約書では、権利帰属の定めが発注時の書面に入っているか、報酬がそれを踏まえて決められているかを確認し、報酬に譲渡の対価が含まれる旨を明記しておくことが考えられます。発注時の書面に定めがないまま、納品後に権利の譲渡を求める運用が、問題になる典型です。

受領後のやり直し

受託者に帰責事由がないのに、受領した後に給付の内容を変更させたり、やり直しをさせたりして受託者の利益を不当に害することは禁止されます(法5条2項2号)。発注時の仕様が曖昧なまま納品後に修正を重ねる運用は、3条通知で給付の内容を明確にすることと一体で見直しを要します。

就業環境の整備

就業環境に関する義務は厚生労働省の所管で、対象は特定業務委託事業者です。

募集情報の的確表示

広告や自社ウェブサイト、クラウドソーシングで受託者を募集するときは、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示が禁じられます。また、募集情報の内容を正確かつ最新に保つことが求められます(法12条)。指針は、表示した報酬額より低い報酬を予定している場合や、実際には委託する予定のない募集を出す場合を虚偽の表示の例として挙げています。労働者の募集との混同を避ける表示も必要となります。

ハラスメント相談体制

ハラスメントについては、受託者からの相談に応じて適切に対応するための体制整備が義務となります(法14条)。対象は性的な言動、妊娠・出産に関する言動、取引上の優越的な関係を背景とした言動の3類型です。指針は、方針の明確化と周知、相談窓口の設置、事後の迅速な対応を求めています。そのため、従業員向けの相談窓口の対象に業務委託先の個人を加えることが実務上の起点になります。相談したことを理由とする契約解除などの不利益な取扱いも禁止されます。

育児介護等への配慮

6か月以上の業務委託では、受託者からの申出に応じて、妊娠・出産・育児・介護と業務を両立できるよう必要な配慮をする義務が生じます(法13条1項)。子の急病による納期の繰下げや、介護のための一部業務のオンライン化は、指針で配慮の例に挙げられています。ただし、配慮が困難な場合には、できない旨とその理由を分かりやすく説明する必要があります。

中途解除の予告と理由の開示

同じく6か月以上の業務委託を中途解除する場合や、期間満了後に更新しない場合は、少なくとも30日前までに予告しなければなりません(法16条1項)。業務の性質上一回限りであることが明らかな契約は、不更新の予告の対象になりません(考え方 第3部4)。予告の方法は書面、ファックス、または受託者が出力して書面にできる電子メール等に限られ、口頭では足りません(厚生労働省令3条)。予告の日から契約満了日までの間に受託者から解除理由の開示を求められたときは、遅滞なく開示する義務があります(法16条2項)。予告義務には、災害などやむを得ない事由により予告が困難な場合や、受託者の帰責事由により直ちに解除する必要がある場合などの例外があります(同令4条)。法律が定めるのは予告そのものの義務ですが、期限の管理を契約書に委ねるために、解除条項に予告期間を定め、更新しない場合も含めて通知の期限を管理することが考えられます。

違反時の措置と点検事項

取引の適正化に関する義務(3条から5条)は公正取引委員会と中小企業庁が、就業環境に関する義務(12条から16条)は厚生労働省が、それぞれ監督します。取引条件の明示、支払期日、禁止行為、募集情報の表示、解除の予告の違反は勧告の対象となります。さらに、正当な理由なくその勧告に従わない場合は命令と公表の対象になります(法8条・9条、18条・19条)。ハラスメント相談体制の違反は勧告と公表の対象ですが命令はなく、育児介護等への配慮は指導・助言の対象です(法19条3項、22条)。命令に違反した場合や報告・検査を拒んだ場合には50万円以下の罰金が定められています(法24条)。公正取引委員会は、調査着手前に違反を自発的に申し出て、既に違反をやめて不利益の回復に必要な措置を講じ、再発防止策を講ずることとし、調査と指導に全面的に協力している事業者については、勧告を行わない方針を示しています(独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方 4)。

下請法の対象となる取引にフリーランス法も適用される場合、公正取引委員会は原則として本法を優先して適用するとしています(同考え方 3)。下請法の3条書面を交付している取引では、発注日や検査完了期日を含めて記載事項の多くが共通するため、既存の書面が本法の明示事項を満たしているかを確認すれば足ります。

発注側の企業で見直す対象は、契約書の雛形、発注のフロー、募集ページ、相談窓口の4つです。

① 契約書・発注書の雛形: 明示事項8項目の網羅、支払期日の60日以内の設定、振込手数料の負担、知的財産権の譲渡・許諾の範囲と報酬に含まれる旨、解除・不更新の予告期間と通知の運用
② 発注のフロー: 口頭やチャットの雑談で発注が始まっていないか、発注と同時に条件を送る運用になっているか
③ 募集ページ: 報酬・期間・業務内容の表示が実際の契約条件と一致しているか、終了した募集が残っていないか
④ 相談窓口: ハラスメント相談窓口の対象に業務委託先の個人を加え、その旨を委託先に周知しているか
2026.9.15 更新: 2026年1月1日に下請法が改正され、中小受託取引適正化法(取適法)となりました。取適法とフリーランス法は法人か個人かで二者択一になるものではなく、相手方が従業員を使用しない個人等である場合は両法の適用をあわせて検討することになります。取適法の代金減額の禁止については代金減額の禁止と控除項目の点検で整理しています。
※本稿は公開時点で公表されている法令・指針・考え方に基づく一般的な整理です。個別の取引への適用については、契約内容と取引実態に即した検討が必要です。

ロジットパートナーズ法律会計事務所のサービス

当事務所では、契約書作成・レビューにおいて、業務委託契約書や発注書の雛形をフリーランス法の明示事項・支払期日・解除予告の規定に合わせて見直す業務に対応しています。委託先の個人を対象に含めたハラスメント相談体制の規程化や、発注フローの整備も、あわせて扱います(規程・ポリシー整備)。M&Aの法務デューデリジェンスでは、対象会社がフリーランスに業務を委託している場合に、取引条件の明示、支払期日、報酬からの控除、解除の予告といった本法への対応状況を調査項目に含め、未対応の事項を発見事項として報告します(M&A支援)。

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